看護師が産休や育休を取得するには?知っておきたい制度や手当について解説
看護師にとって働きやすい環境整備が進められている一方、看護師の現場は忙しく、産休育休を取得することに不安を感じている看護師の方が少なくないのが現実です。
しかし、少しずつではありますが以前より産休育休が取得しやすく、復帰への道筋や働きやすい環境整備されてきています。
この記事では、看護師が産休や育休を上手に取得するために知っておきたい情報、もらえる手当について詳しく解説します。
1.看護師も産休と育休をとれるの?産休育休の取得条件と申請方法
「看護師は仕事が忙しいので、産休や育休をあきらめなきゃいけないのでは」と思っている看護師も多いのではないでしょうか。
看護師も他の職種と同様に、産休と育休を取得する権利があります。産休は勤務年数や雇用形態に関係なく取得できますが、育休には一定の取得条件があります。
ここでは、産休と育休の概要及び取得方法を解説します。
1₋1.産休とは
産休は、出産前の産前休業と出産後の産後休業に分けられます。両方を総称して産休と呼ばれており、労働基準法に定められています。
・産前休業
産前休業は、出産予定日を含む6週間(双子以上の場合は14週間)以内で取得できます。出産予定日よりも実際の出産日が後の場合はその差の日数分も産前休業としてカウントされます。勤務先の病院やクリニックに申請することで、産前休業および産後休業を取得できます。
労働者である看護師が申請すれば、勤務先の病院やクリニックは拒否することはできません。
絶対に取得しなければならないものではないため、出産予定日ギリギリまで働く場合もありますが、母体保護の観点から使用者は最大限の配慮が必要です。
・産後休業
産後休業は、出産後、8週間以内を限度に取得できます。双子以上の出産となった場合は、最後の子を出産した日を基準として数えます。例えば、双子を出産した場合、2日以上にわたって分娩をしたケースでは、2人目を出産した日が産後休業の開始日となります。
本人の申請に関係なく、少なくとも6週間は就業させることができません。
ただし、出産から6週間が経過後に本人が働くことを望んでいて、医師から働くのに支障がないと診断された場合に限って使用者は就業させることができます。
1-2.育休とは
育休は、育児休暇のことです。法律上では、1歳未満の子どもを養育する労働者が会社へ申請することで、子どもが1歳になるまでの期間取得できます。
ただし、保育園に入園できない等の事情があった場合は、最大2歳まで延長可能です。職場によっては、就業規則などで「子が3歳になるまで」など、独自に期間を延長して規定している場合もあります。男女関係なく取得可能です。
なお、「父母が一緒に育休を取る場合には、その期間は1歳2か月まで」と定められています。女性の場合、産後休業後そのまま育休を連続して取得するケースが一般的です。
育休は、雇用契約の内容によって変わります。
①期間の定めのない雇用契約の場合
労働者が申請した場合、会社は原則として拒むことはできません。仮に入社から1年未満であっても育休取得が可能です。
ただし、例外があります。「入社1年未満の労働者を育休の対象から除外する内容の労使協定が締結されている場合」に限り、会社は育休の取得を拒めます。
②期間の定めのある雇用契約の場合
子どもが1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない場合、取得可能です。ただし、入社後1年未満でも労使協定がない場合、育休の取得は可能です。
1-3.産休や育休の申請方法は?
産休育休を取得するには、事前の申請が必要になります。産休の場合、出産予定日の6週間前までに勤務先に申請し、育休は休業開始予定日の1か月前までと法律で定められています。
勤務先である病院やクリニックで、まずは直属の上司である医師や師長などに相談しましょう。そのうえで、総務部門に手続きについて確認するのが一般的です。派遣として働いている場合は、就業先の上司ではなく、派遣元の担当者に確認することになります。
参照:e-Gov法令検索「労働基準法」
参照:公益財団法人生命保険文化センター「ライフイベントから見る生活設計 産前産後休業や育児休業制度を知りたい」
2.出産時に支給される手当について
出産時に、加入している健康保険組合から自然分娩または帝王切開にかかわらず出産育児一時金が支給されます。本章では、支給要件などについて紹介します。
2-1. 出産育児一時金
全国健康保険協会(協会けんぽ)のホームページには、次のように規定されています。
「被保険者または家族(被扶養者)が、妊娠4か月(85日)以上で出産をしたこと。(早産、死産、流産、人工妊娠中絶(経済的理由によるものも含む)も支給対象として含まれます。)」
引用:全国健康保険協会(協会けんぽ)のホームページより
出産育児一時金は以下の場合に支給されます。
・出産者の勤務先が加入する健康保険組合、または退職後に加入する国民健康保険の被保険者
・配偶者などの加入する健康保険組合の被扶養者
令和5年4月1日以降の出産の場合は、1児につき50~48.8万円を上限に法定給付額が支給されます。
2⁻2.出産育児一時金を受け取る際の注意点
勤務先を退職した場合でも次の資格を満たせば、支給対象となります。
・被保険者本人であること(被扶養者は含まれません)
・資格喪失日の前日(退職日)までに継続して1年以上被保険者期間(任意継続被保険者期間は除く)があること。
・資格喪失後(退職日の翌日)から6ヵ月以内の出産であること。
ただし、退職後に配偶者(夫)の加入している健康保険組合等の被扶養者になっている場合や、国民健康保険の被保険者になっている場合、両方から受け取ることはできないことに注意が必要です。
3.出産後に支給される手当について
出産後に支給される手当には、産休中(産前休業・産後休業)にもらえる出産手当金、育休中にもらえる育児休業給付金、出産後子どもを養育している保護者に対して支給される児童手当の3種類があります。
それらの公的な手当とは別に、勤務先や住んでいる自治体によっては福利厚生の一環として「出産祝い金」がもらえることがあります。
3₋1.出産手当金
出産手当金は、産休(産前・産後休業)期間中に基本給(日割)の2/3にあたる額が支給される制度です。支給対象は、健康保険の被保険者本人に限られます。
3₋2.育児休業給付金
育児休業給付金は、育休期間中に以下の割合で支給されます。
・育児休業開始日から180日目までは休業開始前の基本給の67%
・181日目から育児休業終了日までは休業開始前の基本給の50%
申請期限や、申請書類については多くの場合勤務先の総務部門から案内があるのが一般的ですが、念のため自分が加入している健康保険組合のホームページでも確認しておくと安心です。
3₋3.児童手当
児童手当は、こども家庭庁のホームページによると「中学校卒業まで(15歳の誕生日後の最初の3月31日まで)の児童を養育している方に対し、支給されます」とあります。
児童の年齢 | 児童手当の額(一人あたり月額) |
3歳未満 | 一律15,000円 |
3歳以上 小学校修了前 | 10,000円(第三子以降は15,000円) |
中学生 | 一律10,000円 |
金額は、3歳未満が一律15,000円、3歳以上小学校終了前までが10,000円(第3子以降は15,000円)、中学生が一律10,000円です。手続きは、出生の日の翌日から15日以内に、現住所の市区町村に申請を行う必要があります。
児童手当については、少子化対策の政策強化が議論されており、今後増額または支給期間の延長など制度変更が検討されています。
ニュースなどの報道や、市町村からの広報誌などもしっかりチェックしておきましょう。
3-4.その他
勤務先によっては、健康保険組合から出る出産手当金とは別に、独自にお祝い金を支給する制度があるところもあります。就業規則を確認するか、総務部門に確認してみるといいでしょう。
また、自治体によっては若い世代の移住を目的とした独自の祝い金制度を設けていることもあります。市町村役場の窓口で確認、申請が必要です。
4.産休・育休を取る看護師が知っておきたい制度
本章では、産休・育休を取得する看護師が知っておきたい制度について解説します。
4₋1.産休育休中は社会保険料の納付が免除に
産休および育休中は、国民年金保険料や厚生年金保険料などの社会保険料が免除されます。免除された期間については、通常通り納付したものとみなされます。
老後の年金支給額が減額されることはありませんので、安心して出産と育児に専念できます。
参照:日本年金機構「厚生年金保険料等の免除(産前産後休業・育児休業等期間)」
4-2.看護師の産休および育休中の賞与事情
産休・育休中に賞与を支給するかどうかは、勤務先の就業規則で確認する必要があります。賞与は必ず支給されるものではなく、勤務先によっては支給されない場合もあります。
就業規則に賞与の規定があった場合は支給されるのが基本ですが、産休育休中や病気などによる休業期間中は支給しないと規定している場合も珍しくありません。
・支給される場合の算定基準
賞与金額の算定基準は諸手当を含む基本給になります。基本給は、賞与だけでなく退職金や退職後の失業給付などさまざまな場面で渡される支給金額の基準です。
給与明細で確認するか、わからない場合は総務部門で確認してみましょう。
勤め先が国公立病院(公務員)の場合は、減額はされても全く支給されないということはないようです。ただし、育休を延長した場合については、規定が変わってくる可能性も考えられますので、総務部門に確認してください。
4-3.産後パパ育休
以前は、「育休は女性が取るもの」という風潮がありましたが、女性の社会進出や少子化など、男性も育児に主体的にかかわることが求められるようになってきました。
そこで、政府は男性の育休取得を推進しています。
・産後パパ育休とは?
通常では、育児休業の取得は原則1回までです。しかし、子の出生後父親が8週間以内に育児休業を取得した場合は、特別な事情がなくても、再度育児休業が取得できる制度です。
取得には次の要件を満たす必要があります。
① 子の出生後8週間以内に育児休業を取得していること
② 子の出生後8週間以内に育児休業が終了していること
今後、男性の育休取得が増えることが予想され、育児に主体的に参加していくことが求められていくと考えられます。家族や職場と相談しながら、取得を前向きに考えてみるといいでしょう。
4-4.パパ・ママ育休プラス
両親がともに育児休業を取得する場合、原則子が1歳までの休業可能期間が、子が1歳2か月に達するまで(2か月分はパパ(ママ)のプラス分)に延長される制度です。
取得要件は次の通りです。
① 配偶者が、子が1歳に達するまでに育児休業を取得していること
② 本人の育児休業開始予定日が、子の1歳の誕生日以前であること
③ 本人の育児休業開始予定日は、配偶者がしている育児休業の初日以降であること
4-5.相談での解決が難しい場合は「母性健康管理指導事項連絡カード」の利用を
妊娠中の配慮について言い出せない時は、母子手帳についている「「母性健康管理指導事項連絡カード」の利用がおすすめです。
母性健康管理指導事項連絡カードには、妊娠の経過や診察によって主治医等が行った指導事項の内容を、妊婦である女性労働者から事業主へ的確に伝えるためのカードで、使用者(会社)は主治医からの指導事項があれば配慮する義務があります。
伝えづらいことがあれば、ぜひこのカードを活用しましょう。
参照:厚生労働省「参考:母性健康管理指導事項連絡カードの活用方法について」
5.看護師の産休と育休に関して気になるQ&A
産休や育休を取得するにあたり、職場や上司の理解不足などによるすれ違いなどが起こりやすくなります。この章では、それぞれのケースにどう対応できるのか紹介します。
- 妊娠中の通勤ラッシュがつらいです。通勤緩和を申し出る方法はありますか?
-
妊娠中に、通勤緩和の診断書提出や医師からの指導があった場合、使用者(会社)は妊婦に対して相応の措置を講じる必要があります。
例えば、通勤ラッシュでお腹を圧迫されるという場合であれば時差出勤による通勤ラッシュの回避や勤務時間の短縮によって退勤時間を早めるなどの配慮、業務の軽減など、働きやすい環境を実現する義務があります。
医師からの指導内容などを相談し、時差出勤など身体に負担のない方法を話し合いましょう。
- 育休復帰後は同じ部署へ戻れますか?
-
基本的に、産休及び育休前と同じ職場への復帰が基本となります。ただし、状況によっては本人と話し合い、同意の上で違う部署への復帰となることもあります。
3歳に満たない子を養育する職員が短時間勤務(原則1日6時間)や所定外労働の制限適用の申し出、小学校就学前の子を養育する職員の深夜業(午後10時~午前5時)制限の申し出をした場合は、使用者(職場)は拒否できません。
もし、拒否されたり、雇用形態の変更などを迫られたりした場合は、マタニティハラスメントに該当します。職場での解決が難しい場合は、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)の相談窓口に相談しましょう。
- 育休から復帰後の勤務時間はどうなりますか?
-
育児・介護休業法では、育休から復帰後の勤務時間について育児短時間勤務を「1日の所定労働時間を原則として6時間とする措置を含むもの」としています。
「1日6 時間勤務」を規定し、1日の勤務時間や勤務日数の選択肢を広げるように就業規則を整備することは問題ありません。ただし、社会保険適用基準に該当するかどうかの確認が必要です。
上司や職場とよく相談しながら決めていくといいでしょう。 - 育休明けに有給は付与されますか?
-
育児休業明けの年も有給休暇が付与されます。
有給休暇が発生する基準は「労働者の入職日から起算して6カ月継続勤務し、その間の全労働日の8 割以上出勤すること」となっています(労基法第39条1項)。育休中でも、次の要件を満たせば出勤したことと同じように扱われます。
①業務上負傷または疾病の療養のための休業(労災による休業)
②育児介護休業法による育児・介護休業
③産前産後休業
④年次有給休暇取得日
参照:公益財団法人日本看護協会「家庭と仕事の両立(妊娠・出産・育児、介護と仕事)」
6.まとめ
この記事では、看護師が産休及び育休を取得する場合の要件や支給される手当、休暇取得前後に気になるケースについて解説しました。
妊娠および出産とその後の育児では、本人や赤ちゃんだけでなく家族や職場でも不測の事態が起こりうる可能性があり、慎重で臨機応変な対応が求められる時期でもあります。
看護師が生き生きと働いていくためにも、この記事が一助となれば幸いです。
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