災害支援ナースが果たす役割とは?新制度やDMATとの違い、なり方などを徹底解説

災害大国と言われる日本では、近年も大地震や豪雨災害などが各地で発生しています。今後、南海トラフ地震や首都直下地震の発生も予測される中、災害医療の重要性は一層高まっています。
そうした中で注目されているのが、被災地のニーズに応じて必要な看護を実践する「災害支援ナース」の存在です。2024年度からは、制度が大きく変わり、これまでのボランティアベースの活動から、より安定した公的支援体制に環境が整備されました。
そこでこの記事では、災害支援ナースの役割や活動内容、新制度の詳細、なり方までを解説します。災害医療に関心のある方や、災害支援ナースという新たなキャリアの可能性を知りたい方は、最後までご一読ください。
1. 災害支援ナースとは
災害支援ナースとは、地域住民の健康維持・確保に必要な看護を提供するために被災地などに派遣される看護師です。地域住民のみではなく、被災した看護職員の心身の負担軽減とサポートも行います。
災害支援ナースは、厚生労働省医政局が実施する養成研修を修了し、正式に「災害支援ナース」として登録された看護職員である必要があります。
この制度は1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに日本看護協会・都道府県看護協会が創設しました。災害支援ナースは都道府県と所属施設(病院、診療所、訪問看護事業所、助産所や都道府県看護協会等)との間で締結した協定に基づいて派遣されます。
主な活動場所は、被災した医療機関、社会福祉施設、避難所(福祉避難所を含む)など、公共性の高い施設が優先されます。
2024年度からは、国の制度として正式に位置付けられ、派遣にかかる費用の公的負担や、都道府県からの正式な派遣要請システムの確立など、災害支援ナース制度の活動環境は大きく改善されました。現在、全国で約1万人の看護職が災害支援ナースとして登録されています。
参照:日本看護協会「災害看護」
2. 災害支援ナースの活動内容
災害支援ナースは、自然災害時と新興感染症発生時に派遣されます。場合に応じて活動内容が異なるため、専門的な看護支援の違いを見ていきましょう。
2-1.自然災害発生時の活動
派遣先となる被災した医療機関、社会福祉施設、避難所などで下記の活動を行います。
- 被災者の健康管理
- 慢性疾患者の医療ケア
- 衛生環境の整備(手指消毒剤設置、環境整備など)
- 支援物資の適切な分配・管理
- こころのケア(被災者の精神的サポート)
- 生活不活発病予防のための環境調整と運動指導
- 救急搬送対応
原則として、災害発生後3日目以降から1か月程度を活動期間とし、一回の派遣は移動時間を含めて3泊4日が基本です。
2-2.新興感染症発生・まん延時の活動
感染症が流行している地域の医療機関、社会福祉施設、宿泊療養施設などで下記の活動を行います。
- 感染拡大防止や重症化予防のための対策
- 集中治療室での患者管理支援
- 感染症患者とその家族への心理的サポート
- 感染対策の指導と環境整備
感染症対応時の派遣期間は、原則として2週間程度を目安とし、PCR検査などで安全確認を行った後に通常業務に復帰します。健康状態の確認期間についても派遣期間に含まれます。
3. 新たな災害支援ナース制度
2024年度(令和6年度)から、災害支援ナース制度は改正医療法・改正感染症法の施行に伴い大きな変革がありました。これまでのボランティアベースの活動から公的制度へと移行したことで、より多くの看護師が安心して災害支援活動に参加できるように活動環境が大幅に改善されています。
項目 | 従来の制度 | 新制度(2024年4月~) |
法令などの根拠 | ー | 改正医療法・改正感染症法に基づく公的制度 |
派遣の対象 | 自然災害 | 自然災害に加え、新興感染症発生・まん延時も対象 |
養成・登録 | 養成:都道府県看護協会・日本看護協会 登録:都道府県看護協会 | 厚生労働省医政局 (厚生労働省から日本看護協会に委託可能) |
派遣形態 | 個人によって異なる (休暇取得や出張など) | 原則として所属医療機関の職員としての看護業務に従事する (業務扱い) |
派遣の要請 | 各県共通の派遣要請ルートなし | 被災都道府県の派遣要請に基づく ・都道府県内派遣:都道府県による調整 ・都道府県外派遣:厚生労働省医政局による調整 |
経費 | 近隣支援・広域支援の場合は、交通費 ・宿泊費の実費及び日当を 日本看護協会が負担 (それ以外は都道 府県看護協会の負担) | 公的負担 (協定に基づく災害・感染症医療業務従事者又は医療隊の派遣に要する費用は都道府県が支弁する) |
新制度では、法的根拠が明確に整備され、派遣対象も自然災害のみから新興感染症発生時にも拡大されました。これまで都道府県看護協会と日本看護協会が個別に実施していた養成・登録制度は、国が主導する一元的な制度へと変更されています。
派遣形態
従来は看護師が個人的に休暇を取得したり、様々な勤務形態で参加していましたが、新制度では原則として医療機関の職員としての身分のまま看護業務に従事する「在籍出向」の形がとられるようになりました。
派遣要請システム
これまで共通のルートはありませんでしたが、都道府県の派遣要請に基づく制度になっています。県内調整で対応できない大規模災害の場合には、国が全国応援派遣調整を実施する体制も整備されました。
経費面
経費面での支援も充実し、協定に基づく災害・感染症医療業務従事者または医療隊の派遣に要する費用は、都道府県が公的に負担することになりました。
参照:日本看護協会「協会ニュース2023年10月号:新たな災害支援ナースの活動に向け、国から活動要領などが発出」
参照:日本看護協会「災害支援ナースは法令等に基づく仕組みになりました」
4. 災害支援ナースとDMAT・災害看護専門看護師との違い
災害医療の現場では、災害支援ナースだけではなくDMATや災害看護専門看護師といった役割の異なる複数の専門職が連携して支援活動を行います。それぞれの特徴と違いを簡単に紹介します。
4-1.DMATとの違い
DMAT(Disaster Medical Assistance Team:災害派遣医療チーム)は、医師、看護師、業務調整員で構成される専門的な医療チームです。災害発生直後の48時間以内(急性期)に活動を開始し、主に救命救急活動を行います。
一方、災害支援ナースは災害発生から3日後~1ヶ月を目安に活動し、より長期的な視点で看護支援を行うことが特徴です。
項目 | 災害支援ナース | DMAT |
構成メンバー | 看護師、保健師、助産師、准看護師 | 医師、看護師、業務調整員など |
資格・登録要件 | 災害支援ナース研修を修了し、登録する | 日本DMAT隊員養成研修を修了する |
派遣のタイミング | 発災後3日~1か月程度 | 災害直後(要請後48時間以内) |
活動内容 | 避難所・医療機関での健康管理、看護ケア、生活支援 | 被災地での救助・医療支援、トリアージ、医療物資調整 |
DMATは医師・看護師・業務調整員など3~5人でチームを組んで活動します。一方、災害支援ナースは各都道府県の看護協会による調整のもとで派遣され、現地の災害対策本部や医療調整本部などの指示系統に従って、他の医療チームや支援者と連携しながら組織的に看護を行います。
主に活動する場も異なり、DMATは医療機関、SCU、 災害現場での救命活動を中心とするのに対し、災害支援ナースは被災した医療機関、社会福祉施設、避難所などで看護業務や心のケアを行うのがポイントです。
DMATになるには災害拠点病院に勤務し、国立病院機構災害医療センターで実施される「日本DMAT隊員養成研修」を受講し合格する必要があります。
4-2.災害看護専門看護師との違い
災害看護専門看護師は2017年に創設された比較的新しい専門資格です。災害発生直後の急性期だけでなく、慢性期・復旧期・復興期・静穏期といった長期間にわたり、被災者の心身の健康を支える役割を担います。
災害支援ナースが避難所・医療機関での健康管理、看護ケア、生活支援を行うことに対し、災害看護専門看護師は平常時から施設の災害対策や体制づくりに取り組み、スタッフ教育や訓練計画の立案なども行います。
災害看護専門看護師になるには、看護系大学院修士課程で必要な単位を取得・修了し、日本看護協会の認定審査に合格する必要があります。
5. 災害支援ナースになるには
災害支援ナースになるための方法や要件はどのようなものがあるのでしょうか。一つずつ確認していきましょう。
5-1. 災害支援ナースになる方法
災害支援ナースになるための3ステップは下記になります。
まず、個人での直接申し込みは原則として受け付けられていないため、看護管理者・責任者の承認を得て施設単位で申し込みます。ただし、訪問看護ステーションなど医療機関に属さない看護師は例外として個人申請ができます。
次に、災害支援ナース養成研修を受講します。
オンデマンド研修(講義動画視聴:20時間)と集合研修(2日間)の組み合わせで構成されており、両方の修了が登録の条件です。オンデマンド研修終了後に、集合研修が受講できます。
研修修了後、所定の手続きを経て災害支援ナースとして正式に登録されます。登録後も5年ごとに登録更新が必要です。更新には登録有効期間内に都道府県看護協会が実施する研修に少なくとも1回以上参加することが条件となっています。
5-2. 研修の一部受講免除について
研修の一部受講免除について、既に都道府県看護協会に災害支援ナースとして登録されている者(旧災害支援ナース)のうち、旧災害支援ナースの研修または訓練に毎年参加している者、もしくは登録日から5年を経過していない者で、旧災害支援ナースであることを証明できる方は、オンデマンド研修「災害各論(講義)」が免除となります。
また、令和4年度新型コロナウイルス感染症対応研修のうち、「重症患者対応研修」を修了した者で、重症患者対応研修修了証を証明できる方は、オンデマンド研修「感染症各論(講義)」が免除されます。
参照:日本看護協会「災害看護」
6. 災害支援ナースについてのQ&A
ここでは災害支援ナースについてよくある質問をまとめて紹介します。
Q1. 災害支援ナースの給料・待遇・キャリアは?
2024年からの新制度では、災害支援ナースは公的な業務として位置づけられたため、派遣時には交通費・宿泊費・日当が公的に負担されます。ただし、勤務先によっては活動を出張扱いとするケースもあります。
Q2. 災害支援ナースに向いている人は?
災害支援ナースに向いているのは、チームワークを重視でき、現場リーダーの指示に従いながらも自発的に行動できる人です。災害現場というハードな環境でも、予測不能な状況に臨機応変に対応できる冷静な判断力・行動力も求められます。自己管理能力が高く、限られた資源の中で最大の効果を生み出せる柔軟性も重要です。日頃から災害に備えた自己研鑽を怠らない方がふさわしいでしょう。
Q3. 災害支援ナースは何人くらいいますか?
令和3年3月末現在で、災害支援ナース登録者数は全国で10,251人です。内訳は看護師9,767人、保健師138人、助産師242人、准看護師116人となっています。なお、一人が複数の免許を登録している場合がある点に注意です。2024年からの新制度導入により、今後さらに登録者数の増加が期待されています。
Q4. 災害支援ナースになるメリットはなんですか?
災害支援ナースになる最大のメリットは、看護師としての知識や技術を活かして被災地の復興に直接貢献できることです。個人ボランティアとは異なり、公的な派遣制度に基づいて活動するため、より組織的かつ効果的で迅速な支援が可能です。また、災害看護の専門性を高める貴重な経験となり、看護師としての成長・キャリアアップにつながります。社会貢献による充実感ややりがいを感じられる点も大きな魅力です。
7. まとめ
災害支援ナースは、新制度により、ボランティアから公的制度へと移行し、公的負担などの拡充で活動しやすい環境が整っています。
災害医療に関心がある方は、専門知識が被災者支援に役立つと共に、看護師としてのやりがい・成長やキャリアアップにもつながる災害支援ナースを目指してみてはいかがでしょうか。
日本の災害医療体制に貢献し、誰かの命と希望を支える力になる災害支援ナースの活躍が期待されています。
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