山岳看護師ってどんな仕事?山岳看護師になるための資格と仕事内容について
山岳看護師という言葉を初めて聞いたという方も多いのではないでしょうか。2024年7月からスタートしたドラマ(マウンテンドクター)の影響からその存在を知ったという方が増えてきているようですが、同じ医療現場に立つ方々の中でも、その存在を知る方は少ないのだそうです。
近年、登山者の半分以上を高齢者が占めており、高山病など山特有の病気や捻挫などの怪我が増加しています。そのため、山岳医療の知識や技術を兼ね備えた山岳看護師の認知度や必要性も同時に高まっていくことが予想されます。
今回の記事では、そんな山岳看護師の仕事内容やなるために必要な資格などを紹介していきます。
1.山岳看護師とは?
山岳看護師とは、山にある診療所や救護所などで医療活動をする看護師のことです。
登山中の遭難者などの捜索を行う警察や消防の山岳救助隊員とは異なるもので、診療所などで高山病や低体温症などの対応を行うのが主な仕事です。診療所での応急処置に加え、山岳での事故を予防するための啓発活動も行います。
例えば、登山道のパトロールや登山口での声かけ、山小屋での講習会実施なども山岳看護師の仕事です。
1-1. 山岳看護師が必要とされている背景
山岳看護師は、自らの足で山岳診療所に来た人だけでなく、登山中に遭難してしまい、救助されて診療所に運ばれてきた人の応急処置も行います。
【2023年高齢者の遭難者が増え続けている】
2023年、山岳での遭難発生件数は統計の残る1961年以降最多で、3,126件発生しています。遭難者のうち40歳以上が2,850人で全体の約80%を占め、また、60歳以上が1,762人と全体の約50%を占めています。年齢別の遭難者の割合は近年では大きな変化はありません。しかし、遭難者の全体数が増えている点には注目すべきでしょう。
遭難者の総数や、体力・足腰に不安のある高齢の登山者が増えることは、これまで以上に山岳での応急処置が必要になるケースが増える可能性を示唆しています。
遭難者が増える中、山岳診療所の意義やそこで従事する山岳看護師の需要は今後高まっていくことが予想されます。
【様々な年代や用途で安全に登山を行うため求められている】
登山を楽しみたくても高齢がゆえに足腰や持てる荷物量の不安、遭難してしまうことの不安を感じている方もいます。また、小学生の遠足に、医療知識やスキルのある人物に同行してほしいというニーズもあります。
山と看護の知識を併せ持つ山岳看護師の役割は、山岳診療所を設けてあるような高い山への登山だけにあるわけではなく、地上での講習会なども含め、活用できるシーンは広がってきています。
2.山岳看護師の勤務体制や仕事内容
ここからは山岳看護師の具体的な仕事内容についてみていきます。山岳診療所での基本的な勤務体制や仕事内容だけでなく、山岳看護師が山と看護の知識を生かし、どのような場で活躍しているのかも併せて紹介します。
2-1.勤務体制
山岳看護師の主な職場となるのが日本に約20か所ある山岳の診療所や救護所です。日本ではほとんどの山岳診療所が夏限定で診療業務が行われています。
山岳看護師をはじめ、山岳診療所で働くスタッフの多くはボランティアとして無償で従事しています。また、山岳診療所は季節限定で開所していることや、高地にあるといった立地面から、休日を利用して2泊3日ごとの交代制という働き方が主流です。そのため、一緒に働く看護師や医師が毎回異なるというケースも珍しくありません。
山岳診療所には非番の時間帯はなく、24時間体制で運営されています。登山が行われるのは明るい時間帯が主ですが、登山者が山頂でお酒を飲んだことにより脱水症状を起こしたり、呼吸が浅くなって高山病になったりする人も多くいます。そのため、昼夜問わず気を張っておく必要があります。
2-2.山岳看護師の仕事内容
【診療】
山岳診療所で働く山岳看護師は、登山ルートのコンディションや気象状況の確認、薬や医療器具の在庫や配置の確認、登山者の急な病気やケガへの対応の他、薬剤や医療機材などの手配も行います。
重症化した高山病や脚の骨折など、ヘリコプターによる搬送が必要と判断される場合には、地理的条件や天候、時刻を鑑みて、隣接する山小屋や山岳警備隊などと連携し、安全な方法を提案するといった仕事も山岳診療所で担当しています。
【健康相談】
診療以外の業務としては、登山中に体調の不安を感じた人から、その先の行程の相談を受ける「健康相談」があります。これは診療所へ至る道やその周辺の山道を実際に何度も歩いているからこそできる業務です。
多くの山岳診療所は医学部を持つ大学が運営しており、医学生や看護学生のための研修の場にもなっています。山岳看護師は、山岳ならではの看護を学生にレクチャーします。症状がひどい登山者に向けて、限られた設備や薬品の中で、何をするのが最善かに加え、どのように下山させるのがベストかまでも考えることは、学生たちにとって貴重な体験となります。
その他には山小屋に到着した登山者を対象にした、安全な登山のための講習会や、高地ならではの医学的データを収集・解析する研究活動も行っています。
山岳看護師は、山岳診療所以外にも学校登山の引率、トレイルランニングなどの山岳スポーツ競技の救護班、安全登山のための講習会、登山撮影隊への同行、海外登山ツアーや登山ツアーの同行など、さまざまな活躍の場があります。
3.山岳看護師になるには
山岳看護師になるには、登山医学・レスキュー技術・クライミング技術・遭難救助などの知識や技術が求められます。これらの知識や技術を得るには、日本登山医学会 に加入し、「日本登山医学会公認山岳看護師 」もしくは「DIPLOMA IN MOUNTAIN MEDICINE(国際山岳看護師)※以後はDiMM認定(国際山岳看護師)と記載」 を取得する必要があります。
ここでは、これらの資格や取得方法について詳しく解説していきます。
3-1.資格の名称変更の経緯
山岳看護師に関連する資格として、2つの資格を上げましたが、以前は「認定国内山岳看護師 」という2023年度3月末までで取得終了となった資格がありました。
DiMM認定(国際山岳看護師)は、救助隊と一緒に行動できる体力や技術を身につけているということを前提に、山岳看護師の資格として認定されていますが、認定国内山岳看護師はDiMM認定(国際山岳看護師)に届かない場合の救助策として導入されていました。
しかし、認定国内山岳看護師は国内山岳医療における能力を示すものではなく、認定資格でありながらも対応するカリキュラムが検討されないままであることが懸念されていました。
そのため、このような状況を是正するために、制度やカリキュラムの見直しが行われ、名称も「日本登山医学会公認山岳看護師」へ変更されました。
現在は、認定国内山岳看護師またはDiMM認定(国際山岳看護師)を取得している方が新しく制定された「日本登山医学会公認山岳看護師」への移行措置が取られています。
詳しい移行期間を確認したい方は下記のリンクを参考にされてください。
●日本登山医学会:国内山岳看護師の移行措置および DiMM 保持者の方へお知らせ
3-2.山岳看護師に関連する資格や専門プログラム
山岳看護師の関連する資格や専門プログラムである「日本登山医学会公認山岳看護師」と「DiMM認定(国際山岳看護師)」は、どちらも名前の通りではありますが内容に違いがあります。
日本登山医学会公認山岳看護師
日本登山医学会の認定資格になります。山岳医療における最新の知識を持ち、山岳領域における看護師の専門的能力がある看護師を認定するもので、臨床経験だけでなく、山岳領域での看護経験も求められます。
DiMM認定(国際山岳看護師)
資格ではなく、学位に近いものになります。山岳地帯で発生しうる疾病および外傷についての理論と対応実践について学び、登山医学の臨床や研究を実践出来る医師、看護師および救急救命士の養成を目的として実施するプログラムです。
これらの資格やプログラムの認定を維持するためには、どちらも取得後5年以内に更新をする必要があります。
3-3.日本登山医学会公認山岳看護師資格の取得方法
日本登山医学会の認定資格「日本登山医学会公認山岳看護師」を取得するためには、5年以上の臨床経験や山岳領域における看護実践経験が5年以内に3回以上必要など、さまざまな要件があります。
山岳領域における看護実践経験とは、山岳診療所での従事だけを指すものではありません。山岳診療所の多くは大学が運営していることもあり、公募は少なく、関係者以外は参加できないものも多くあります。
ここでの看護実践経験には、山岳における救護活動及びパトロール活動、山岳スポーツ競技会などの救護活動、海外登山・学校登山・ツアー登山等の帯同なども含まれています。山岳診療所で従事することは必須ではないことは山岳看護師資格を取得する際の大きなポイントとなるでしょう。
※受験資格の詳細に関しましては、以下の日本登山医学会のホームページをご参照ください。
●日本登山医学会:日本登山医学会公認山岳看護師制度について(日本登山医学会専門制度委員会)
4.まとめ
登山や山が好きで、山に関わる仕事がしたいという思いを持っている人にとって、山岳看護師を目指すというのは目標を叶える選択肢の1つになるでしょう。
山岳診療所や救護所での看護対応だけでなく、登山者に向けての安全講習会など、登山中にケガや事故にあう人、体調を崩してしまう人を減らす活動で広く貢献できるのは山岳看護師ならではと言えるのではないでしょうか。今回の記事がお役に立てば幸いです。
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