保健師とは?職場による仕事内容の違いや給与・キャリアパスなど徹底解説
保健師は、病気の予防や健康の維持を目的とした保健指導を行う医療専門職です。約5割の保健師が行政機関で働いているため、公務員の印象が強い方もいるでしょう。実際には、一般企業や学校、病院などでも幅広く活躍しており、近年は特にニーズが高まっています。
また、人の気持ちに寄り添うことが求められるため、AIで代替されることがなく、将来性も高いとされています。そこで本記事では、保健師の仕事内容や種類、将来性、働き方について詳しく解説します。
1.保健師とは
保健師は、乳幼児から高齢者までの全ての地域住民の健康を守るため、保健指導や健康相談などの必要な保健サービスを提供しています。
主に、保健センターや保健所など公的機関と、一般企業や学校、病院などの一般施設に勤務しています。
令和4年末時点において就業している保健師の数は60,299人(男性1,947人、女性58,352人)で、令和2年度調査の結果と比較して4,704人(8.5%)増加しています。
出典:厚生労働省「令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」
2.保健師と看護師の違い
保健師と看護師の違いは、下記のとおりです。
保健師 | 看護師 | |
仕事内容 | 保健指導、健康相談、生活習慣病予防、メンタルヘルスケア、退院調整 | 診療補助、療養者の世話、医療処置、投薬管理 |
支援対象 | 地域住民、乳幼児、高齢者、学生、企業従業員 | 傷病者、入院患者、外来患者 |
勤務先 | 市区町村(保健センター)、保健所、病院・診療所、一般企業、学校、地域包括支援センター | 病院・診療所、訪問看護ステーション、介護施設、保育所 |
看護師が病気の治療や回復をサポートするのに対し、保健師は予防や対策をサポートします。保健師は病気になる前の予防や対策に関わる場合が多く、看護師と比較すると支援の対象者が広くなります。
また、看護師の職場は病院や診療所などの医療機関が多くを占めますが、保健師は市町村や保健所などの自治体や一般企業が中心になっています。
さらに、保健師になるには、看護師と保健師の両方の国家試験に合格する必要があります。
2-1.保健師の職場・仕事内容
保健師は、職場によって呼び方が異なります。保健師の職場と仕事内容について、詳しく見ていきましょう。
行政機関(行政保健師)
行政保健師は、市区町村の保健センターや保健所、厚生労働省などで働く保健師です。地方自治体で働く場合は「地方公務員」、厚生労働省などの省庁で働く場合は「国家公務員」となります。
令和4年度調査では、市区町村で働く保健師は31,104人で、全体の約51.6%を占めています。
行政保健師の仕事は、乳幼児から高齢者までの健康管理や生活習慣病予防、メンタルヘルスケアなどを行うことです。たとえば、乳幼児の健診や予防接種の計画・実施、高齢者の健康相談や生活支援、精神的な健康問題に対する相談や支援活動などがあります。
出典:厚生労働省「令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」
一般企業や事業所(産業保健師)
産業保健師は一般企業や事業所に勤務し、従業員の健康を守るために保健指導や健康管理を行う保健師です。令和4年度の調査によると、事業所で働く保健師の数は4,201人で、全体の約7%を占めています。
保健師の設置は義務付けられおらず、産業保健師を雇用している企業は少なくなっています。しかし、2015年12月よりストレスチェックが義務化された背景から保健師のニーズは高まっています。
産業保健師の主な役割は、従業員の健康診断の結果をもとに健康指導を行い、生活習慣病の予防やメンタルヘルスケアを推進することです。たとえば、定期健康診断後のフォローアップとして、健診結果に基づいた個別の健康指導を行い、従業員が健康的な生活習慣を維持できるようサポートします。
出典:厚生労働省「令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」
出典:厚生労働省「ストレスチェック制度 導入マニュアル」
学校(学校保健師)
学校保健師は、生徒や教職員の健康管理や体調管理の啓蒙活動などを行う保健師です。公立の小学校・中学校・高校で保健室に勤務するためには養護教諭の免許状が必要ですが、私立の学校では看護師資格と保健師資格のみで勤務が可能です。
学校保健師の人数を明確に示すデータはありませんが、厚生労働省の令和4年度の調査によれば、「看護師等学校養成所または研究機関」と「その他」を合わせた人数が3,209人で全体の約5%を占めており、この中に学校保健師が含まれていると考えられます。
仕事内容は、日常的な健康相談や体調不良時の対応、けがの応急処置、定期健康診断の計画・実施などです。また、保健教育の一環として、生徒たちが健康的な生活習慣を身につけられるように講習やイベントを企画する場合もあります。
出典:厚生労働省「令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」
医療機関(病院保健師)
病院保健師は、病院やクリニックなどの医療機関で働く保健師です。令和4年度の調査によると、病院で働く保健師は4,666人で全体の約8%、診療所で働く保健師は2,396人で全体の約4%を占めています。
病院保健師の仕事内容は患者の健康管理や保健指導を通じて、病気の予防と健康増進を図ることです。たとえば、入院患者の退院後の生活指導やフォローアップ、慢性疾患を持つ患者への生活習慣指導、健診結果に基づいた健康相談などがあります。
出典:厚生労働省「令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」
3.保健師の1日のスケジュール例
ここでは産業保健師を例に挙げて、保健師の1日のスケジュール例を紹介します。
その日にやるべきタスクを確認し、必要な準備を整えます。
保健師は健康診断後、生活習慣の改善が必要と判断された対象者の血圧、脂質、血糖などの健康データをチェックします。疾患のリスクが高いと考えられる場合は早めに医療機関を受診するよう促します。また、緊急性の高い方に関しては、産業医へと申し送り、面談日の設定調整などを行います。
休憩を取ります。
集団全体の健診結果や医療費のデータなどを長期的に追跡し、分析を行って今後の施策に役立てます。
健康イベントを企画・立案し、資料作成を行います。
健康チェックの結果報告や企画した健康イベントの提案などを行います。
何らかの業務が残っている場合は、時間外労働を行います。
3.保健師の給与
保健師の給与は、職場によって異なります。4つの働き方別に、保健師の給与について詳しく見ていきましょう。
3-1.行政機関(行政保健師)
行政機関で働く保健師の給与は、公務員の給与体系に基づいて決まります。国家公務員として働く行政保健師の平均給与は月額36万574円で、地方公務員として働く場合の平均給与は月額31万4,154円です。
各種手当や賞与を含めると、年収500~600万円程度となるでしょう。
出典:人事院「国家公務員給与の実態~令和5年国家公務員給与等実態調査の結果概要~」
出典:総務省「令和5年 地方公務員給与実態調査結果の状況」
3-2.一般企業(産業保健師)
産業保健師の給与は、勤務先によって異なります。産業保健師を雇用している企業は大企業が多いため、大企業の平均給与が参考になるでしょう。
令和5年度調査によると、大企業の給与は月額34万6,000円です。賞与や各種手当てを含めると、年収500~600万円程度が目安です。
出典:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
3-3.学校(学校保健師)
公立学校で働く学校保健師は養護教諭の資格が必要で、給与は市や県の給与体系に基づいて決まります。公立学校の学校保健師の平均給与は約400万円から500万円程度です。
一方、私立学校で働く学校保健師の給与も同程度とされていますが、職場によって異なります。
3-4.医療機関(病院保健師)
病院保健師の年収は一般的に400万円から500万円程度とされています。ただし、医療機関の規模や地域によって大きく異なります。
大規模な病院や総合病院では、給与に加えて各種手当や福利厚生が充実しており、住宅手当や通勤手当、資格手当などが支給される傾向があります。
4.保健師の将来性
保健師は、将来性が高い職種といわれています。その理由について詳しく見ていきましょう。
4-1.予防医療への関心が高まっている
生活習慣病の増加、高齢化による医療費の増大から、予防医療への関心が高まっています。たとえば、糖尿病や高血圧の早期発見と予防が重要です。保健師は健康診断や健康指導を通じて、病気の予防と生活習慣の改善を促進する役割を持つため、需要が高まることが予想されます。
4-2.複雑化する健康問題への対応が求められる
現代の健康問題は少子高齢化、国際化、情報化の進展に伴い複雑化しています。認知症やうつ病、外国人への保健指導、感染症対策など、多様な問題に対応する必要があります。保健師はこのような問題を解決するためにも必要とされており、今後も需要が高い状況が続くでしょう。
4-3.独居や単身世帯への支援が必要とされている
保健師の仕事の1つに、社会的孤立に悩む人々の支援があります。独居老人や1人で育児をする母親など、孤立しがちな人々の相談窓口として機能しています。このように、社会的孤立の解消に寄与し、地域社会全体の健康と福祉の向上に貢献していることから、保健師の需要は高い状況が続くと考えられます。
5.保健師のキャリアパス
保健師のキャリアパスとして、以下のパターンがあります。
5-1.組織内での昇格を目指す
保健師は、行政保健師、産業保健師などさまざまなフィールドで活躍できます。昇格については勤め先で異なり、行政保健師の場合、経験を積み重ねることで、組織内で係長や課長などの役職に就任し、キャリアップすることが可能です。また、産業保健師では、企業の制度によってキャリアが構築されるので、実績の積み重ねが評価につながります。
5-2.転職によるキャリア構築
保健師は、異なる分野への転職によってキャリアを構築することも可能です。たとえば、行政保健師から産業保健師へ、学校保健師から行政保健師への転職が考えられます。その際は、保健師としてのスキルや経験を多方面で活かすことができます。
また、大学院への進学によって専門性を磨き、研究機関での活動や保健師教育に携わることも可能です。
5-3.国際的な活動を行う
保健師の中には、WHO(世界保健機関)の公衆衛生のスペシャリストとして活躍する人や、北欧での母子保健の研究、青年海外協力隊として途上国での支援活動をしている人などがいます。
国内外で経験を積むことで視野が広がり、より理想的なキャリアパスが見つかるでしょう。
5-4.開業保健師として独立する
一定の経験と専門性を積んだ保健師は、開業保健師として独立する道を拓くことができます。自身の知識やスキルを活かし、地域社会やクライアントに対して直接サービスを提供できるため、大きなやりがいと高い自由度があります。
たとえば、地域の企業と契約して、従業員の健康診断やメンタルヘルスケアを行ったり、個人向けに健康相談や栄養指導を行ったりします。
参照:厚生労働省「こんにちは開業保健師です」
6.保健師のやりがい
保健師は、次のような理由によってやりがいを感じられる仕事です。
6-1.人の一生に寄り添い、役に立つ実感を得られる
保健師は健康を守る専門家として、妊娠・出産から赤ちゃんの発育、思春期のケア、職場でのメンタルヘルス、介護現場まで、人の一生に寄り添い、多くの人の生活に直接貢献しています。
あらゆる年齢・立場の人々から頼りにされ、不安を抱える母親、思春期の子ども、高齢者の介護者など、さまざまな背景を持つ人々の悩みを聞き、支援することによって「人の役に立っている、必要とされている」と感じる瞬間が大きな喜びとなり、仕事へのモチベーションとなるでしょう。
6-2.成果が目に見える
保健師は病気の予防や健康啓蒙活動を通じて、健康だと感じている人々にもアプローチします。
病気予防のための啓発活動は根気が必要ですが、その成果として健康診断の受診率向上や生活習慣の改善が見られると、大きな達成感と喜びを感じられるでしょう。
6-3.社会全体を守る役割を持つ
保健師は、新型ウイルスや感染症の流行を防ぐなど、社会全体を守る役割を持っています。感染症の予防は時に命に関わるため、保健師の行動1つひとつが社会全体の健康を守ることに直結します。この責任の重さがやりがいにつながるでしょう。
7.保健師になる方法
保健師になるためには、国家資格の「看護師免許」と「保健師免許」の両方が必要です。そのため、看護師と保健師、両方の国家試験に合格しなければなりません。
高校卒業から保健師になるまでの流れは下記のとおりです。
上記のように、大きく分けて2つのルートがあります。いずれのルートも看護師国家試験と保健師国家試験に合格することが必須条件です。各ルートは個々のニーズや状況に応じて選択することが可能です。
たとえば、看護師としてまず働きたい場合、3年制の専門学校や短期大学を卒業して早く現場に出ることができます。看護師として働きながら保健師を目指すことで、経験を積みながらキャリアアップを図れます。
出典:厚生労働省 jobtag「保健師」
7-1.試験の難易度
保健師国家試験の合格率は、全国平均で90%前後と高値で推移しています。令和6年度の第110回保健師国家試験も、受験者数7,795人に対して合格者7,456人と、合格率は95.7%でした。
受験資格を得るまでの道のりは長いですが、合格率も高く、しっかりと対策・学習を行えば、決して難易度は高くありません。
ただ、保健師国家試験の範囲は広く、公衆衛生、地域看護、疾病予防など多岐にわたります。そのため、体系的に知識を整理し、効率よく学習することが重要です。
出典:厚生労働省「第110回保健師国家試験、第107回助産師国家試験及び第113回看護師国家試験の合格発表」
7-2.保健師になるために必要な学費
保健師になるためには、さまざまな教育機関で学ぶことが必要です。それぞれの教育機関でかかる学費は下記のとおりです。
※学費はおおよその目安であり、実際の費用は学校によって異なる場合があります。
教育機関 | 学費(約) |
大学(4年制) | 250~650万円 |
大学院(2年制) | 150~350万円 |
大学専攻科・別科(1年制) | 50〜130万円 |
短大専攻科(1年制) | 100~180万円 |
専門学校(1年制) | 150〜250万円 |
上記を踏まえ、高校卒業から保健師になるまでにかかる費用を算出しましょう。
8.保健師資格取得のための支援制度
保健師の資格を取得する際に経済的な支援を受けたい場合は、国や病院、学校の支援制度を利用する方法があります。
代表的な支援制度は下記のとおりです。
種類 | 対象 | 支給額 | |
日本学生支援機構 | 給付型 貸与型 | 【給付奨学金】 ・学ぶ意欲がある・経済的に進学が難しい 【貸与奨学金】 ▼第一種奨学金 ・学業成績が特に優れている ・経済的に進学が難しい ▼第二種奨学金 ・第一種よりも審査基準が緩やかで、より広範な学生が利用できる | 【給付奨学金】 毎月7,300~75,800円 【貸与奨学金】 月額20,000円~120,000円(10,000円刻み) |
看護師等修学資金貸与事業 | 貸与型(条件付きで一部または全額免除) | ・将来的に東京都内で看護職として一定期間勤務する意思がある ・成績優秀で心身健全であるなど ・看護師養成所、助産師養成所、保健師養成所に在学中の学生 | 月額25,000円・50,000円・75,000円・100,000円のいずれか |
専門実践教育訓練給付金 | 給付型 | 【始めて受給する場合】 ・受講開始日までに雇用保険の被保険者の期間が通算2年以上あるもの ・在職中、もしくは離職後1年以内であること 【受給が2回目以降の場合】 ・前回の受講開始日から、雇用保険の被保険者の期間が通算3年以上あるもの ・在職中、もしくは離職後1年以内であること | 教育訓練費用の最大50%(年間上限40万円) |
学校や病院の奨学金 | 貸与型(条件付きで返済免除) | 特定の病院で一定期間勤務する予定がある | 月額30,000~50,000円程度、あるいは年額60~70万円程度※病院によって異なります |
上記以外にも利用条件や特記事項があるため、利用を検討する際は公式Webサイトを確認しましょう。
看護師・保健師が利用できる奨学金や助成金などについて詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
関連する記事はこちら▼
看護師を目指す際に利用できる奨学金・助成金・給付制度とは?条件や内容を解説
9.まとめ
本記事では、保健師の仕事内容や種類、将来性、働き方について詳しく解説しました。
保健師は、病気の予防や健康の維持を目的とした保健指導を行う医療専門職で、活躍の場は行政機関や一般企業、学校、病院など多岐にわたります。人の気持ちに寄り添うことが求められるため、AIで代替されにくい職種であり、将来性も高いとされています。
健康を守り、地域社会全体の福祉に貢献する保健師は、多くの人々に直接関わるやりがいのある仕事です。これから保健師を目指す方や、キャリアチェンジを考えている方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
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