今、医療現場で「特定看護師」が活躍している?行えること・なる方法を解説

特定看護師

特定看護師とは、資格の名称ではなく、国が定めた特定行為研修を修了した看護師のことです。研修を修了することで、医師の指示をその都度受けることなく、手順書に基づいて特定行為を実施できるようになります。医師不足の緩和や、患者の迅速な処置を行える点から、特定看護師の重要性が高まっています。

専門性が求められる高度な業務を担うため、研修には時間と費用がかかりますが、キャリアの選択肢の1つとして特定看護師を目指す看護師が増えているのが現状です。そこで本記事では、特定看護師が求められている理由や特定行為の種類、研修の詳細などについて詳しく解説します。

1.特定看護師とは

特定看護師とは、保健師助産師看護師法に基づき、特定行為を手順書に従って実施できる看護師のことです。

医師の業務は、「絶対的医行為」と、看護師が補助的に実施できる「相対的医行為」に分かれています。かつてはこの2つの境界が曖昧でしたが、相対的医行為の中でも高度な技術が求められるものが「特定行為」として定義されました。特定行為は21区分38行為に分類されており、これを行うためには指定機関での研修によって高度な知識と技術を習得し、修了認定を受ける必要があります。この研修を修了した看護師が「特定看護師」です。

研修は「区分別科目」と「共通科目」に分かれており、共通科目に加えて、行えるようになりたい特定行為に対応した区分別科目を修了する必要があります。つまり、一度の研修ですべての特定行為を行えるようになるものではありません。

厚生労働省の報告によると、2023年時点の特定看護師の数は6,875人で、特に「栄養および水分管理に関する薬剤投与」の特定行為を受講した看護師が最も多く、5,611人にのぼります。次いで、呼吸器(人工呼吸療法にかかるもの)関連が2,868人、創傷管理関連が2,513人と続く結果となりました。

出典:e-GOV法令検索「保健師助産師看護師法37条の2項」
出典:厚生労働省「特定行為研修を修了した看護師数(特定行為区分別)」

看護師には、特定看護師のほかにも診療看護師や認定看護師、専門看護師があります。それぞれの概要は下記のとおりです。

  • 診療看護師
    特定行為の全区分を実施でき、医師からの具体的な直接指示のもとで腹腔穿刺、気管内挿管、ERなどの相対的医療行為を行える
       
  • 認定看護師
    特定の看護分野における高度な技術と知識を習得しており、後進指導や看護ケアの質の向上を担う
       
  • 専門看護師
    専門看護分野において高度な技術と知識を持ち、在宅医療に移行した患者に対して医師や他の看護師、ケアマネジャーなどとの連携・調整を行う
       

特定行為研修制度や看護師の種類を詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください▼
特定行為研修制度とは?修了者ができること・目的・医師側のメリットを解説」

2.特定看護師が必要とされている理由

医師が作成した「手順書」に基づき、難易度の高い診療の補助を行うことができる特定看護師ですが、必要とされている理由や導入することで得られるメリットはどのようなものなのでしょうか。

【なぜ特定看護師は必要とされているの?】

日本は超高齢化社会に直面し、医療資源の不足が課題となっています。医師や看護師の人手不足や病床数の削減が懸念される中、国は入院医療の見直しと在宅医療の推進に取り組んでいます。

このような背景において、医療現場では多職種が協力し合う「チーム医療」の重要性が高まっています。以前では、医師でしか対応できなかった業務範囲に特定看護師が加わることで、医師の業務負担を軽減したり、医師の指示が必要で病院でしか対応できなかった患者の在宅医療の推進へとつながります。

【特定看護師がもたらすメリット】

・医師のメリット
医師が作成した「手順書」に基づいて、難易度の高い診療の補助を行うことができるため、医師の業務負担が軽減され、より専門的な診療に専念できる環境が整います。看護師が手順書に基づいて安全に対応できるため、医師は安心して業務を任せることが可能です。

・看護師のメリット
医師がすぐに対応できない状況でも迅速なケアを行え
、患者の症状の悪化を防ぎ、医療の質が向上し、効率的な医療提供が実現されます。
特定看護師としての資格はキャリアアップの一環であり、医療チーム内での役割や存在感が高まることが期待されます。また、高度な専門性を発揮する機会が増え、業務に対するやりがいも向上するでしょう。

・患者のメリット
医師を待たずに必要な医療処置を受けることで、早期の症状回復が期待でき、特定行為を行える看護師が身近にいることで安心感を得られます。また、特定看護師のスキルによって在宅でのケアが充実し、入院せずとも自宅で医療を受けられる可能性が広がります。

関連する記事はこちら▼
高まるチーム医療の重要性とは?その理由や取組事例まで解説

3.特定行為の実施の流れ

特定行為看護師は、下記の流れで業務を行います。

STEP
看護師が患者を観察し、問題の可能性を疑う
STEP
手順書の内容を確認する

患者の状態が、医師の作成した手順書に記載された「看護師に診療の補助を行わせる患者の病状の範囲」であり、「当該手順書に係る特定行為の対象となる患者」であるかを確認する。

STEP
病状の範囲内である場合

医師の作成した手順書の「診療の補助の内容」の処置を行います。また、処置を行う際は「特定行為を行うときに確認すべき事項」の内容に注意します。必要があれば、医師に報告を行います。

STEP
症状の範囲外である場合

医師に患者の報告を行います。手順書の「医療の安全を確保するために医師又は歯科医師との連絡が必要となった場合の連絡体制」を確認し、その内容に沿って行います。

STEP
医師に結果を報告する

患者の状態と行った特定行為内容を「特定行為を行った後の医師又は歯科医師に対する報告の方法」を確認し、速やかに報告を行います。

                   

▼特定行為研修を受講した前後での実施の流れの違い

特定行為の実施の流れ

特定看護師ではない場合、患者の異変に気づいた際には、まず医師に患者の状態を報告し、医師から処置の指示を受ける必要があります。その後、看護師が指示された処置を行い、再度医師に結果を報告するという流れになります。特定看護師以外は、医師の確認と指示を待つため、処置までに時間がかかる可能性があります。

特定看護師がいることで、この医師への確認と指示のステップを省略でき、業務がスムーズになり、患者への迅速なケアが提供できる点が大きな利点です。また、医師の負担軽減にもつながり、医療現場全体の効率が向上します。

4.特定行為の種類一覧

特定看護師が行える特定行為は、21区分38行為に分類されています。

特定行為区分

出典:厚生労働省「特定行為とは」

特定看護師は、実際の現場でどのように医師と協働しているのでしょうか。実際の事例を確認することで特定看護師の存在意義やメリットがより明確になります。

現場での具体的な協働の事例やその効果について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください▼
特定行為研修制度とは?修了者ができること・目的・医師側のメリットを解説

5.特定看護師になる方法

特定看護師になるためには、研修を一定期間受ける必要があります。受講資格、研修期間、研修費用などについて詳しく見ていきましょう。

5-1.特定看護師になるための条件(受講条件)

厚生労働省は、特定行為研修の対象者を「概ね3~5年以上の実務経験を有する看護師」であることを想定しています。それに基づいて、研修先が個別に受講条件を定めています。

一例としては、下記のような受講条件があります。

  • 看護師資格の取得後、通算で5年以上の実務経験がある
  • 現在も看護実践に関わっている
  • 所属する施設長の推薦がある
  • 看護職賠償責任保険に加入している

5-2.特定行為研修の受講スケジュールと内容

ここでは、特定研修の受講スケジュールや具体的な内容を見ていきましょう。

特定行為研修の内容

特定行為研修では、共通科目と区分別科目の両方を修了する必要があります。受講時間は、共通科目が約250時間、区分別科目が5~34時間です。

特定行為研修

特定行為研修は講義・演習・実習から成り立ち、共通科目は必須、区分別科目は選択式です。所定の研修を受けたうえで、修了試験に合格する必要があります。勤務先で必要とされるスキルを取得できるように、区分別科目を選択することが大切です。

特定行為研修の具体的なスケジュール

特定行為研修の受講スケジュールは、研修機関によって異なります。

例えば、4月から7月にかけて共通科目の講座を受講し、8月中旬共通科目の試験を受けます。試験終了後には共通科目の実習を受けます。

実習と並行して区分別科目の講座を受講し、10月中旬に気分別科目の試験を受け、今度は区分別科目の実習を行います。

共通科目と区分別科目の試験と区分別科目の実習が終了し、翌年3月に認定審査が行われ、特定看護師になることができます。

区分別科目を2つ受けたい場合は、1科目の講座を受けながら並行して2科目を受講することも可能です。

特定看護師への道のり

このように、研修は長期間にわたり実施されるため、受講スケジュールを確認しながら、職場の責任者と調整して進めることが大切です。

領域別パッケージ研修について

また、複数の区分別科目を受講したい場合は、領域別パッケージ研修を受けることを検討しましょう。

領域別パッケージ研修一覧

「領域別パッケージ研修」は、特定行為の中でも実施頻度が高い行為をパッケージ化した研修プログラムです。この研修では、特定の領域に特化して学ぶため、通常の研修よりも一部の内容が免除され、より短期間で修了することが可能です。そのため、特定行為を早期に習得し、現場での実践に活かすことができるというメリットがあります。領域別パッケージ研修がある区分は下記の6領域です。

  • 在宅・慢性期領域
  • 外科術後病棟管理領域
  • 術中麻酔管理領域
  • 救急領域
  • 外科系基本領域
  • 集中治療領域

ただし、研修が免除された特定行為については実施が認められません。

出典:公益財団法人慈愛会 今村総合病院「看護師特定行為研修センター」
出典:厚生労働省「特定行為研修とは」

5-3.費用

特定行為研修の費用は、研修機関や区分別科目によって異なり、30万円から250万円程度となっています。例えば、日本看護協会が実施している特定行為研修は、必須の区分別科目の受講に会員価格で452,000円(税込)がかかります。この金額は、看護師の月収を超える場合もあるため、費用負担が大きいと感じる方も多いでしょう。

詳細な費用に関しては、日本看護協会の特定行為研修に関するページで確認できますので、詳しくは下記をご覧ください。

●日本看護協会のホームページ
特定行為研修に関するよくあるご質問Q.10

また、その他の指定研修機関での費用については、厚生労働省の指定研修機関一覧を参考にしてください。

●厚生労働省のホームページ
【特定行為に係る看護師の研修制度】指定研修機関について

5-4.受講にかかる費用の支援制度

特定行為研修の受講には費用がかかりますが、支援制度を活用することで負担を軽減できます。代表的な支援制度の1つに「教育訓練給付」があります。これは、一定の要件を満たした雇用保険の被保険者や、被保険者でなくなってから1年以内の方を対象に、受講費用の4割(上限20万円)が支給される制度です。

また、「人材開発支援助成金」では、事業主が雇用者に対して専門的な訓練を計画的に実施した場合、受講費用や受講期間中の賃金の一部が助成されます。

さらに、「地域医療介護総合確保基金」を通じて、都道府県が受講料や代替職員を雇用するための費用を支援する制度も存在します。これらの制度を活用することで、費用を大幅に抑えることが可能です。特に、所属する医療機関が特定行為研修に看護師を参加させる場合、支援がより手厚くなることもあるため、管理者に相談してみるとよいでしょう。

●厚生労働省のホームページ
教育訓練給付金
人材開発支援助成金
地域医療介護総合確保基金に関する通知

5-5.看護師として働きながら特定行為研修を受講できるか

特定行為研修は、看護師としての仕事を続けながら受講できるように設計されています。多くの研修機関では、eラーニングを導入しており、講義をオンラインで受講できるため、忙しい看護師でも自分のペースで学習を進めることが可能です。

また、研修期間中は施設管理者や看護管理者が受講者に対して勤務の調整や身分保障を行う義務があります。これにより、働きながらでも安心して研修に集中できる環境となります。研修を受講する際には、職場の責任者と相談し、無理のないスケジュールを組むことが大切です。

6.まとめ

超高齢社会を迎えた日本において、医療現場での医師不足や看護師の役割拡大が急務とされる中、特定看護師は医療の効率化と質の向上に貢献する重要な存在です。

特定看護師になるには、研修機関で高度な知識と技術を習得する必要があり、受講費用がかかりますが、支援制度を活用することで費用負担を軽減できます。また、働きながらでも受講できる環境が整っているため、現役の看護師でもキャリアアップの一環として挑戦しやすいでしょう。

本記事の内容が、特定看護師としての適正を判断する際のお役に立てれば幸いです。

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