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精神科の看護師の仕事とは?一般診療科との違いややりがいを紹介

精神科 看護師

精神科の看護は、精神的健康について援助を必要としている人が患者であることから、患者の特徴や働き方も一般診療科とは異なる点が多くあります。

そのため、精神科は具体的な仕事のイメージがしづらいかもしれません。

この記事では、精神科が実際はどのような診療科なのか、そこで看護師はどのような働き方をしているのかなど紹介します。やりがいやキャリアアップのための資格などについても併せて解説していきますので、ぜひ今後のキャリアを検討する上での参考にしてください。

1.精神科の看護とは?

一般社団法人日本精神科看護協会によれば、精神科看護は以下のように定義されています。

精神的健康について援助を必要としている人々に対し、個人の尊厳と権利擁護を基本理念として、専門的知識と技術を用い、自律性の回復を通して、その人らしい生活ができるよう支援することである。

引用:日本精神科看護協会

精神科看護の対象は、精神疾患を抱える人やそれに起因して発症する症状のみではなく、生きている上で起こりえる多様な心の問題も含んでいます。そのため、精神疾患を抱えている人のみではなく、全ての人々を対象とし、広く支援活動を行います。

また、支援の先に目指すものは、対象となる人自らが、思考・判断・行動することを通して、より良い生き方を見出すこととしています。個人の尊厳や権利、個別性を尊重した上での支援のためには、看護師ひとりひとりに高い職業倫理が求められます。

2.精神科と一般診療科との違い

精神科と一般診療科では、対象とする患者はもちろんのこと、患者と接する期間なども異なります。

 精神科一般診療科
対象とする患者精神的疾患を持つ人・多様な心の問題を抱える人身体的な疾患・障害を持つ人
全国の病院数1,0567,100
全国の病床数321,828886,663
平均在院日数
(入院してから退院するまでの期間)
276.7日16.2日
1日平均外来患者数56,897人1,200,660人
※2023年10月1日時点

2-1.対象とする患者の違い

精神科看護で対象とする患者は、精神的疾患を持つ人や多様な心の問題を抱える人です。例えば統合失調症、躁うつ病などの気分障害、てんかんなどに加え、認知症、摂食障害、アルコール依存症・ギャンブル依存症などが挙げられます。認知症が進行し、介護施設での生活が厳しくなった際には、精神科病棟が認知症患者を受け入れるケースもあります。

一般診療科では客観的なデータや画像や血液などの検査で診断できるものも多いですが、精神科では心因性・内因性のものが多く、診断するのが難しい特徴があります。

また、一般診療科は患者が望んで受診のために病院を訪れ、診察や治療を受けますが、精神科では患者が自ら望んで病院に来ることは少なく、治療への意欲が低いことが少なくありません。それでも病気を治療して社会に戻れるようになるために、看護スタッフは患者が治療意欲を高められるようにサポートする必要があります。

2-2.入院方法の違い

精神科病院には、本人が自身で入院を決める任意入院もありますが、一般診療科の病院とは異なる入院方法があります。

患者の中には精神的な疾患を抱えている自覚がない場合もあり、本人が入院を拒否したとしても入院の必要性が感じられる際は、医療保護入院・措置入院・応急入院など措置もしくは強制的に入院となることもあります。

また、精神疾患は、再燃・再発を起こすことも多いため、完治が難しく、一般診療科と比較すると在院日数が長くなる傾向にあります。しかし、日本の精神科病院の在院日数は諸外国と比べてもかなり長い状況です。そのため厚生労働省では、入院医療中心の治療から地域生活中心の医療へとシフトチェンジするために様々な施策を行っています。

参考:令和4(2022)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況(厚生労働省)
参考:第13回 地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会(厚生労働省)

3.精神科看護師の役割と仕事内容

精神科の看護師が、一般診療科と比べて特に求められるのは、患者の心のケアやサポートです。

心のケア・サポートのために、精神科看護師は以下のような業務を行います。

3-1.コミュニケーションを取って信頼関係を築く

患者の心をケアするためには、信頼関係を築くことが必須です。そのため、患者とのコミュニケーション量は、一般診療科よりも多くなるでしょう。

また、患者の中には自身で症状や気持ちを上手く言葉にできない人もいますし、信頼関係が築けていない段階では警戒して何も話してくれなかったり、時には暴言を吐かれたりすることもあります。患者とのコミュニケーションは患者に寄り添ったケアを行うためにも重要な業務です。

3-2.セルフケアのサポート

患者の食事や睡眠、トイレ、入浴などのサポートを行うこともあります。要介護者へのサポートとは異なり、精神科では「その人らしい生活ができるよう支援すること」が重要になります。そのため、基本的には患者自身が行えるようになるための最小限のサポートをするのが仕事です。

3-3.薬の与薬・管理

精神科では薬での治療が主になるので、看護師は患者の薬の管理や与薬も行います。薬を飲むのを嫌がったり、吐き出したりする患者もいるので、患者がきちんと薬を飲みこんだかどうかのチェックもします。

薬での治療が基本となるため、医療器具などを用いた医療処置を行う機会は少ないのが特徴です。

3-4.安全管理

患者の中には暴れてしまう人もいます。そのような危険行為の予防や、危険物から患者を遠ざけるための管理、施錠の徹底なども精神科の看護師の仕事です。

4.精神科看護師のニーズの高まり

近年は、高齢化の影響により認知症の患者が増加傾向にあります。精神科病棟では、認知症が進行して介護施設などで共同生活が困難になった患者を受け入れることもあり、今後も精神科看護師のニーズが高まっていくでしょう。

また、精神疾患の患者数はうつ病などの気分障害やアルツハイマー病などを中心に増加しており、2017年には精神疾患の患者数が419万人を超え、2020年には614.8万人に達しました。この数は2017年に比べると約1.5倍で、短期間で急増しています。このことからも、精神科看護師に期待される役割は大きいと言えるでしょう。

参考:令和2年(2020)患者調査(確定数)の概況)(厚生労働省)
参考:第13回 地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会(厚生労働省)

5.精神科看護師のやりがいや魅力

精神科病院に入院してくる患者は、本人が治療を求めていない場合があり、入院や投薬を受入れることができていないことがあります。そのため、服薬や入院を拒否する反応を示す患者も多くいます。

そのような患者としっかりと向き合い傾聴を行い、医療者という立場からの見解や考察を伝えながらコミュニケーションを取る内に、患者が自身の状況を受け入れ、治療を前向きに受ける姿などが見られた際に大きなやりがいを感じることができます。

また、患者の症状が回復していくにつれ、患者と看護師という関係性から病気ではなく人を見るという「人対人との関わり」を体験することになります。すると、患者からその人らしさや意外な一面を発見でき、患者への理解が深まると同時に、看護師として関わることで変化をしていく患者をみることもできます。

このようなに患者が変化し回復していく姿から、自身の看護師としての能力や治療の成果を実感することができ、存在意義を高めることができる点もやりがいや魅力だと言えます。

参考:日本精神保健看護学会誌「精神科看護師の看護実践におけるやりがい」

6.精神科看護師が感じるつらいことと対処方法

精神科の看護はやりがいと表裏一体です。患者とのコミュニケーションが求められるからこそ、それが原因で傷つくこともあります。患者の中には精神疾患の影響で、心ないことを言ったり、攻撃的になったりする人がいます。また、コミュニケーションを取ること自体を拒否されることもあるでしょう。そういった場合でも、看護師は患者の視点に立ちながら真摯に向き合わなくてはなりません。

患者の言動に傷ついたり、それを引きずったりしないためには、プライベートで積極的に心身ともにリフレッシュをすることに加え、精神看護の知識を身につけることが有効です。精神疾患が患者の精神や感情、態度などにどのような影響を与えうるのか、それを知識として身につけておくことをおすすめします。病気の症状や薬の副作用なのだと理解することで、患者の行動や言葉に冷静に対応できるようになります。

7.精神科看護師としてキャリアアップをするのにおすすめの資格

精神科の看護師としての専門性を高めたり、キャリアアップを狙ったりする際には、以下の2つの資格の取得を検討することをおすすめします。

7-1.精神科認定看護師

精神科の看護領域において、優れた看護技術と知識を用いて、質の高い看護を実践できる看護師を日本精神科看護協会が認定する資格です。教育プログラムを受けて、最終的に認定試験を受ける形式になっています。

受講のためにも審査に受かる必要があり、看護師免許取得後5年以上で、そのうち通算3年以上の精神科看護実務経験が出願要件になっています。資格は5年毎の更新制です。2023年3月時点で、精神科認定看護師数は902人です。教育プログラムを受けられる期間は原則1年で、総時間数は770時間、受講に必要な費用は約87万円です。

近年、精神科で働く際に「患者に適したケアをしたい」「根拠のある看護をしたい」といった思いで、精神科認定看護師を目指す人は増えています。例えば、教育プログラムで学ぶ臨床推論の知識は、身体合併症の早期発見や予防に役立てられますし、入院医療や地域生活を支援するための知識は、患者を包括的にケアするために活用できます。

7-2.専門看護師

患者や家族に起きている問題を総合的に捉えて判断し、専門看護分野における知識や技術を発揮しながら施設や地域の看護の質の向上に貢献できる看護師を、日本看護協会が認定する資格です。専門分野として、「がん看護」「在宅看護」「感染症看護」「老人看護」などの14分野があり、そのうちの1つに「精神看護」があります。精神看護の専門看護師は、2023年12月時点で436人です。

専門看護師になるためには、看護師として5年以上の実践経験を持ち(そのうち3年間以上は専門看護分野での経験が必要)、大学院で修士課程を修了して必要な単位を取得した後に、専門看護師認定審査に合格する必要があります。審査は書類審査と筆記試験で、審査料は51,700円(税込)です。大学院で所定の単位を取ることが審査を受けるための条件となるため、精神科認定看護師よりも取得難易度は高いと言えます。

専門看護師は患者や家族が抱える複雑な課題や不安をケアするために、患者や家族との良好な関係を築き、他の医療職とも連携しながら適切な看護を行います。療養が自宅に移行しても、医療を円滑に受けられるよう各職種や施設と協力し、良い連携が図れるように働きかけることもします。また、看護師同士の教育や研究を通じて、看護の質を向上させる取り組みも行っています。

また、「専門看護師」という名称は、医療施設のチラシやパンフレット、各種出版物等などに記載することができます。専門性を持った看護師が所属することのアピールができ、患者が医療施設を選択する際の判断材料の1つとなります。

精神科認定看護師や専門看護師の資格を取得することが、昇格・昇進・昇給に直結するケースもあります。自身の知識や技術の向上ではなく、看護師としての地位や信頼を高めるためにも資格の取得を検討してみることをおすすめします。

参考:精神科認定看護師制度(日本精神科看護協会)
参考:専門看護師制度(日本看護協会)

8.まとめ

精神科の看護師は、一般診療科の看護師とは仕事内容に大きな違いがあります。精神疾患は主に薬で治療が行われるため、一般診療科と比べると複雑な医療処置を行うケースは少ないものの、患者とのコミュニケーションを取りながら長期間にわたって信頼関係を築き、患者の症状回復や精神的な良い変化を近くで感じられる点は精神科ならではのやりがいになります。

また、認知症のような、精神科以外でも接することの多い疾患を持っている患者の対応も多く行うため、一般診療科で得た知識やスキルが精神科では活用できない、といったこともありません。仮に精神科から看護師のキャリアを開始したとしても、患者に寄りそうケアは、一般診療科でも活かせるはずです。

この記事が、看護師としてのキャリアを考える際の参考になれば幸いです。

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