空港看護師(エアポートナース)2種を紹介|検疫官と空港クリニックの仕事や給料を徹底解説
空港で働く看護師、通称「エアポートナース」を知っていますか? 看護師の活躍の場は病院やクリニックだけではありません。今、空港という特殊な環境で働くエアポートナースが注目されています。英語力やコミュニケーション力、臨機応変な対応力が求められるものの、一般的な医療機関では得られない貴重な経験ができる魅力的な職場です。
「エアポートナース」には”空港クリニックの看護師”と”検疫官”の2つの道があります。
そこでこの記事では、2種類の空港看護師について、仕事内容や給与、なり方などをさまざまな角度から紹介します。海外で働くことに興味がある方や、英語力を活かしたキャリアを目指す看護師の方々に役立つ情報を掲載しておりますので、最後までご一読ください。
1.空港看護師(エアポートナース)とは
空港には、一般的な病院やクリニックとは異なる環境で活躍する「空港看護師」または「エアポートナース」と呼ばれる看護職員がいます。
主に「空港クリニックの看護師」と「検疫官」という2つの働き方があり、それぞれ専門性の高い業務を担っています。
1.1 空港クリニックの看護師
空港クリニックの看護師は、国内外の旅行者やビジネス客の急な体調不良や怪我に対応する医療専門職です。一般的なクリニックとは異なり、観光客や出張者など、一時的な利用かつ軽症者への対応が中心となります。
1.2 検疫官
検疫官は、厚生労働省に所属し、空港等の検疫所で勤務する看護師資格を持つ国家公務員です。海外からの感染症の国内侵入を防ぐため、入国者の健康状態の確認や必要な検査を行う重要な役割を担っています。
2.空港看護師(エアポートナース)の仕事内容と働き方
空港クリニックと検疫官それぞれの具体的な仕事内容と働き方を見ていきましょう。
2.1 空港クリニックの看護師の仕事
空港クリニックに勤務する看護師は、国内外の旅行者やビジネス客の健康を支える医療スタッフです。一般の病院やクリニックとは異なり、日々様々な国籍や言葉、文化・風習の方々への対応が求められることはもちろん、緊急性の高い案件も多いのが特徴です。
主な業務には、大きく次の3つがあります。
・診療補助と応急処置
空港クリニックでは、旅行中の突発的な体調不良への診療・看護が中心となります。
例えば、長時間フライトによる体調不良や脱水症状、重いスーツケースの取り扱いによる腰痛や転倒による怪我など、旅先で起こりやすい症状や怪我への対応を行います。また、持病を持つ方の症状が急変した場合にも対応するため、幅広い医療知識が必要です。
・救急対応
空港内の急病人のため、クリニックから現場へ駆けつけて救護する場合もあります。
特に、重症者の場合は、迅速な判断と医療機関への搬送が必要です。
また、航空機事故や災害時には、多数の傷病者に対しトリアージを実施し、救護活動も行います。このため、通常の看護業務に加えて災害医療の知識とスキルも必要不可欠です。
2.2 検疫官の仕事
検疫官は、空港で国境における感染症対策の最前線で活躍する看護師です。海外からの感染症の国内侵入を防ぐため、次のような業務を担当しています。
・検疫業務
感染症対策における入国審査前の重要な水際対策として、サーモグラフィーによる体温スクリーニングや健康状態の確認を行います。感染症の疑いがある場合には、専用の検疫ブースでの詳しい問診や検査を実施します。また、機内で体調不良者が発生した場合には、到着後に機内で問診や他の乗客からの聞き取りなどの検疫対応を行い、国内に感染症が入るのを防ぎます。
・予防接種業務
海外渡航者への予防接種は、検疫所の重要な業務の一つです。特に黄熱病など予防接種が必要な国への渡航者には、予診から接種、経過観察までトータルケアで対応します。
・衛生管理業務
航空機内や空港施設の衛生検査を実施し、感染症予防の観点から適切な衛生環境が保たれているかを確認します。また、感染症を媒介する可能性のある生物の調査も重要な業務です。
・健康相談業務
海外渡航を予定している方への健康相談や、帰国者への健康管理アドバイスを行います。また、世界各地の感染症発生状況について正確な情報提供を行い、渡航者の安全な海外生活をサポートします。
3.空港看護師(エアポートナース)の働く場所
空港で働く看護師の活躍の場は、主に空港クリニックと検疫所の2つです。
ただし、医療施設や検疫所がある空港は限られており、勤務地を検討する際には立地条件をしっかりと確認する必要があります。
3.1 空港クリニックがある空港一覧
日本国内の空港クリニックは、羽田や成田といった主要な国際空港を中心に、全国で7つの空港に全9カ所で運営されています。
成田国際空港
・成田国際空港クリニック(運営元:一般社団法人 晴天会 )
羽田空港
・東京国際空港診療所(運営元:医療法人社団 翔医会)
・東邦大学羽田空港クリニック(運営元:東邦大学)
・東邦大学羽田空港第3ターミナルクリニック(運営元:東邦大学)
その他の空港
・新千歳空港:新千歳空港クリニック(運営元:医療法人 同仁会)
・中部国際空港:中部国際空港診療所(運営元:藤田医科大学)
・大阪国際空港(伊丹空港):大阪国際空港メディカルクリニック(運営元:一般財団法人 豊中市医療保健センター)
・関西国際空港:関西国際空港クリニック(運営元:近畿大学 医学部)
・福岡空港:丸岡内科胃腸クリニック(運営元:医療法人 丸岡クリニック)
3.2 検疫所の設置場所
検疫所は、全国に111カ所設置されており、そのうち空港は31カ所、海港は80カ所となっています。空港の検疫所は次のように階層的に組織化されています。
本所(2カ所)
成田国際空港、関西国際空港
支所(7カ所)
新千歳空港、仙台空港、羽田空港、中部国際空港、広島空港、福岡空港、那覇空港
出張所(22カ所)
全国の主要空港に設置されており、地域別では下記の通りです。
北海道地方:旭川空港、函館空港
東北地方:青森空港、秋田空港、新潟空港、福島空港、花巻空港
関東地方:茨城空港
中部地方:富山空港、小松空港、静岡空港
中国・四国地方:岡山空港、米子空港、高松空港、松山空港
九州地方:北九州空港、大分空港、長崎空港、佐賀空港、熊本空港、宮崎空港、鹿児島空港
参照:厚生労働省「検疫所」
4.空港看護師(エアポートナース)の給与
空港での看護師の給与体系は、空港クリニックと検疫所で大きく異なります。一般の医療機関に準じた給与体系の空港クリニックと、国家公務員として法で定める給与基準がある検疫官、それぞれの特徴を見ていきましょう。
4.1 空港クリニックの看護師の給与
空港クリニックで働く看護師の給与は、運営する医療機関や雇用形態によって異なりますが、主に大学病院や地域の医療機関が運営しており、基本的な給与体系は一般の病院看護師と同じです。
厚生労働省の令和5年賃金構造基本統計調査によると、看護師の月額給与は男性が約36.5万円、女性が約35.1万円となっています。
空港クリニックには、直接応募と運営元の医療機関経由で勤める方法があります。そのため、手当などは勤務形態に応じた額が支給されるなど、運営母体となる医療機関の給与規定に準じます。
出典:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種」
※決まって支給する現金給与額参照、ボーナス除く
※おおよその手取り額の算出方法:給与総月額に0.75または0.85を乗じて計算
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4.2 検疫官の給与
検疫官は国家公務員として採用されるため、給与は法律で定められた基準に従って支給されます。給与の基本情報と令和5年度の公務員給与を見ていきましょう。
【基本情報】
初任給
222,700円~(令和6年4月1日以降の採用予定者)
※経験年数に応じて金額調整あり
主な手当
・扶養手当
扶養親族がいる場合、配偶者月額6,500円、子ども1人につき10,000円等
・地域手当(勤務地によって異なる)
東京検疫所(23区)で勤務の場合、俸給+扶養手当の20%
・住居手当
借家や賃貸アパート等に住んでおり、家賃を支払っている場合、月額最高28,000円
・通勤手当
交通機関を利用し通勤している場合、運賃等相応額を最高55,000円(一か月あたり)
・期末、勤勉手当(ボーナス)
年に俸給等の約4.4か月分(令和4年度の支給額)
※採用月によっては異なる
【令和5年度の月額平均給与】
検察官の基本給与や手当を確認した所で、次に検疫官の実際の給与平均を見ていきましょう。
平均給与月額:360,574円(諸手当除く)
平均年齢:47.8歳
平均経験年数:22.4年
公務員である検疫官の給与は、経験年数や職務内容に応じて段階的に上昇していく仕組みとなっており、長期的なキャリアプランを立てやすい特徴があります。また、国家公務員としての安定した雇用条件も魅力の一つです。
参照:人事院「令和5年国家公務員給与等実態調査の結果」
参照:東京都例規集「職員の給料表の適用範囲に関する規則」
5.空港看護師(エアポートナース)のメリット・デメリット
空港は、医療業界と航空業界が交わるユニークな職場環境であり、看護師の働き方にもメリット・デメリットがあります。キャリアプランを考える上で、下記のメリット・デメリットを参考にしましょう。
5.1 空港クリニックの看護師の場合
【メリット】
・利便性が良好
空港クリニックで働く看護師の大きなメリットは、通勤の利便性です。空港は電車やバスでのアクセスが充実しており、また施設の特徴から、早朝や夜遅くまで公共交通機関が運行している傾向にあるため、通勤がしやすい環境です。
・普段は軽症の患者対応が多い
業務内容については、一般の病院と比べて心理的負担が比較的少ないことが特徴です。重症患者は近隣の医療機関へ搬送されるため、主に旅行者の体調不良や怪我、持病の症状の変化といった軽症者の対応が中心となります。ただし、空港内での事故や災害時には救護対応が必要となる場合もあります。
・英語を活かす機会があり、国際的な環境で経験を積める
国際空港での勤務では、外国人旅行者への対応機会も多く、国際的な環境で幅広い経験を積むことができます。英語でのコミュニケーションスキルを活かせる環境であり、日々の業務を通じて必要な医療英語を習得することも可能です。なお、求人によってはTOEIC600点以上などの英語資格が必須となる場合もあり、TOEIC700点以上の英語力があれば、採用のチャンスが高まるとされています。
【デメリット】
・夜間診療があるクリニックもある
一方で、空港クリニックの看護師のデメリットとして、まず施設の運営体制が挙げられます。クリニックの診療時間によっては夜間診療に応じたシフトが組まれることがあります。基本的に日勤のみの施設が多いものの、就職前に勤務体制を確認することが重要です。
・看護業務以外の事務作業を担当することも多い
空港クリニックは比較的規模が小さく、少人数での運営体制が一般的であるため、看護師一人あたりの業務負担が大きくなりやすい点も課題となっています。看護業務に加えて、受付や電話対応、備品管理、清掃といった事務作業も担当することが多くあります。
・英語力や柔軟のコミュニケーション能力が求められる
外国人利用客の多い国際空港などでは言語や文化の違いによるコミュニケーションの課題も生じることがあり、高い外国語スキルと柔軟な対応も求められます。
5.2 検疫官の場合
【メリット】
検疫官は国家公務員としての地位が保障され、安定したキャリアパスを築くことができます。定期的な昇給に加え、諸手当やボーナス、退職金など、長期的な視点で充実した待遇が整備されています。また、水際対策の最前線で感染症対策に携わることで、高度な専門性を身につけることができ、国際的な医療現場での経験を積むことができます。
【デメリット】
検疫官のデメリットとして最も大きなポイントは、全国各地の検疫所への異動が求められる点です。海港に配属される可能性もあり、必ずしも希望する空港や地域での勤務になるとは限りません。また、業務内容によっては感染症リスクもあるなど、自身や家族のライフプランや健康に大きく影響する恐れがあります。
6.空港看護師(エアポートナース)になるには
空港クリニックの看護師と検疫官になる方法を紹介します。
6.1 空港クリニックの看護師になる方法
空港クリニックの看護師として働くためには、空港クリニックの求人に直接応募する方法と、空港クリニックを運営している医療機関に就職後、派遣として空港クリニックで勤務する方法の2通りあります。
【直接応募で求人に応募する】
直接応募の場合、各空港クリニックのホームページや看護師専門の求人サイト、就職・転職エージェント、ハローワークなど、空港クリニックの求人をリサーチします。応募の際は、履歴書・職務経歴書の作成はもちろん、看護師免許証の写し、応募条件により英語力の証明(TOEICスコアなど)、前職の上司からの推薦状なども準備します。選考は一般的に、書類選考や面接など、病院の就職活動と同じです。
【医療機関経由で応募する】
医療機関経由の場合は、空港クリニックの運営母体となる医療機関を確認することから始めましょう。例えば、成田国際空港クリニックは日本医科大学、羽田空港クリニックは東邦大学医療センター、関西国際空港クリニックは近畿大学病院が運営しています。
まず、運営している医療機関に一般の看護師として就職し、その後空港クリニックへの異動を目指すことになります。通常、本院での勤務を経て、院内での評価や本人の希望を考慮しながら、空港クリニックへの異動が検討されます。
ただし、直接応募の場合は募集人数が少なく競争率が高く、医療機関経由の場合は必ずしも空港クリニックへの配属が保証されないといった注意点を押さえておきましょう。
6.2 検疫官になる方法
検疫官になるためには、厚生労働省の採用試験に合格する必要があります。
応募資格と選考については下記になります。
・日本国籍を有している
・看護師免許を取得している
・看護師として3年以上の臨床経験がある(准看護師としての経験は含まれず)
・業務上の必要性により普通自動車免許を保有している
・履歴書
・職務経歴書
・看護師免許証(写)
・小論文(1,200文字程度)
書類選考には1〜2ヶ月程度かかり、合格者は厚生労働省(東京都千代田区霞が関)もしくは住まいの近くの検疫所での面接試験に進むことができます。
検疫官は国家公務員としての採用となるため、全国各地への転勤の可能性があること、毎年募集は行われているものの、募集人数や勤務条件は年度によって変動することに注意が必要です。
7.まとめ
空港看護師は、従来の医療現場とは異なる新しい看護のキャリアを築くことができる職種です。空港クリニックでは、来日される外国人旅行者への英語での対応や、空港内での事故・災害時の救護活動など、一般の医療機関では経験できない特色ある看護業務に携わることができます。一方、検疫官は国の感染症対策という重要な役割を担い、国家公務員としての安定性も魅力です。
どちらの職種も、空港という特殊な環境で専門性を活かしながら、やりがいのある仕事ができる魅力的な働き方です。国際的な医療の現場で活躍したい看護師にとって、新たなキャリアの選択肢となるのではないでしょうか。
医療のスキルと国際感覚を活かせる空港看護師で、看護師としての可能性を広げてみませんか。
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