資格10種を紹介!がん看護の現状と将来性は?今求められる専門性と関連資格

がん看護

がん治療の高度化や多様化が進む中、医療を受けながら地域で生活する人や、がん単独ではなく複数の疾患を抱える人が増加しています。また、患者や家族のニーズも多様化しており、がんと共に生きる人々を支えるために、看護の実践能力の向上がますます求められています。

こうした背景を受け、がんに関連する看護師向けの教育・研修はさまざまな団体・機関によって実施されており、国のがん対策推進基本計画にも医療従事者の育成が重要な課題として明記されています。

がん看護のニーズは今後も拡大していくことが予測され、専門的な知識やスキルを持つ看護師の役割はさらに重要になるでしょう。

本記事では、がん看護における求められるスキルや資格について詳しく解説します。

1.がん看護とは?

がん看護とは、がんと診断された患者に寄り添い、治療や療養を支える看護のことです。がんの診断は、患者本人だけでなく、その家族にも大きな影響を与えるため、患者の身体的ケアだけでなく、精神的・社会的なサポートも行います。

がんの治療には、手術や薬物療法、放射線療法などさまざまな方法がありますが、看護師は治療の補助を行うだけでなく、副作用の管理や治療に伴う身体的負担の軽減にも努めます。

さらに、がん看護では「緩和ケア」が重要な役割を果たします。かつては、緩和ケアは終末期の患者に対して行うものと考えられていましたが、現在ではがんの診断時から治療と並行して行います。

これは、患者と家族の苦痛や不安をできるだけ早期に軽減し、治療の質や生活の質を向上させるためです。身体的な痛みの軽減だけでなく、患者の食事や睡眠の質を向上させるケア、精神的な支えを提供するカウンセリング、社会的なつながりを保つための支援などを行います。

参考:厚生労働省「緩和ケア」

2.がんの動向と看護人材のニーズ

日本のがんの動向はどのようになっているのでしょうか。また、それに伴う看護人材のニーズも見ていきましょう。

2-1.がんは1981年から連続して死因のトップ

日本において、がんは1981年以降連続して死因の第1位となっており、その影響力は年々増しています。2023年のがんによる死亡者数は38万2504人(男性:22万1360人、女性:16万1144人)にのぼり、全死亡数の24.3%を占めました。

がんの発症率は年齢とともに上昇し、高齢者ほどそのリスクが高くなります。男女ともに40代から発症率が急激に上昇し、男女ともに70~74歳でピークに達します。高齢化社会の到来により、がんにかかる人が増加しています。

厚生労働省の調査をもとに弊社で作成いたしました
厚生労働省の調査をもとに弊社で作成いたしました

出典:日本対がん協会「がんの動向」
出典:厚生労働省「令 和 2 年 全国がん登録 罹患数・率 報告」

2-2.看護人材のニーズが高まり続けている

厚生労働省の報告書によると、がんの標準医療を担う人材の不足が、病院間・地域間での人材育成の格差の要因となっていることが指摘されています。現在、がん専門医療人材の育成は進められていますが、高度化するがん医療の現場を支える人材の確保は依然として課題です。

今後、がん診療に従事する専門職や、がん患者の症状緩和・ケア、QOL(生活の質)向上、終末期医療を支える人材の育成が急務となっています。

出典:厚生労働省「がん対策推進基本計画 中間評価報告書(令和4年6月)」

3.がん看護に役立つ資格10選

がん治療の進歩に伴い、看護師が担う役割も多様化し、より高度なケアが必要とされています。ここでは、がん看護に役立つ資格について紹介します。

3-1.がん看護専門看護師

がん看護の中でも代表的なものとして専門看護師の資格があります。早速見てきましょう。

資格①:がん看護専門看護師

がん看護専門看護師は、高度な専門知識と技術をもとに、患者の身体的・精神的苦痛を理解したうえで、家族にも寄り添いながらQOL(生活の質)の向上を目指して質の高い看護ケアを提供する看護師です。

抗がん剤治療や放射線治療を受ける患者に、副作用の管理や痛みの軽減を図りながら、身体的負担をできるだけ抑えるためのケアを行います。

同時に、患者が抱える不安やストレスに寄り添い、心理的サポートを提供することも大切な役割の1つです。さらに、がん患者を支える家族の負担を軽減するために、介護に関するアドバイスや、精神的ケアにも取り組みます。

がん看護専門看護師教育基準カリキュラムでは下記の教育目標が掲げられています。

がん看護の教育目標
日本看護協会の資料より弊社で加工いたしました

がん看護専門看護師の資格認定は1996年に開始され、2024年12月時点で1,133名が認定されています。

がん看護専門看護師になるには、看護師免許を持ち、5年以上の実務経験(うち3年以上は希望する専門分野での経験)があることが前提です。その後、看護系大学院の修士課程で専門看護師教育を修了し、専門看護師認定審査に合格することで資格を取得できます。

詳しくはこちらの記事もご確認ください▼

出典:日本看護看護協会「専門看護師 都道府県別登録者数(日本地図版) 2024年12月現在」
出典:日本看護協会「がん看護専門看護師・ がん化学療法・がん放射線療法看護認定看護師の 養成・就業状況について」

3-2.がん看護に関する4つの認定看護師

日本看護協会の認定看護師制度には、がん看護に関する分野が4つあります。それぞれの役割や仕事内容について紹介します。

資格②:緩和ケア認定看護師

緩和ケア認定看護師は、病気の治療を受ける患者の身体的・精神的苦痛を和らげ、生活の質(QOL)を維持・向上させることを目的とした専門的な看護を行う看護師です。

患者本人だけでなく、その家族の状況や心理的負担にも目を向け、必要に応じて遺族ケアも含めた支援を行います。

また、「緩和ケア」という認定看護分野は、2020年に、「がん性疼痛看護」と「緩和ケア」が統合され新たな分野へ再編されました。

参考:日本看護協会「認定看護師教育基準カリキュラム(分野:緩和ケア)」

資格③:がん薬物療法看護認定看護師

がん薬物療法看護認定看護師は、抗がん剤や免疫療法などのがん治療に関わる薬物療法を安全かつ効果的に実施し、患者が治療を継続できるよう支援する看護師です。

抗がん剤による副作用(吐き気、倦怠感、免疫力低下など)を軽減するための対策や、患者の苦痛を和らげるケアを実践します。

参考:日本看護協会「認定看護師教育基準カリキュラム(分野:がん薬物療法看護)」

資格④:がん放射線療法看護認定看護師

がん放射線療法看護認定看護師は、放射線治療を受ける患者の身体的・心理的負担を軽減する役割を担う看護師です。放射線療法は、がん治療の主要な選択肢の1つで、効果を最大限に引き出し、副作用を適切に管理するためには、専門的な知識と高度な看護技術が必要です。

参考:日本看護協会「認定看護師教育基準カリキュラム(分野:がん放射線療法看護)」

資格⑤:乳がん看護認定看護師

乳がん看護認定看護師は、診断から治療、治療後のサバイバーシップ支援や終末期ケアに至るまで、乳がん患者とその家族を包括的に支える役割を担う看護師です。

乳がんは女性のライフサイクルに深く関わる疾患であり、患者1人ひとりの生活背景や価値観に寄り添った個別的なケアが必要です。

手術を伴う治療では、術前の精神的な準備を支援し、術後には個別の病態に応じた合併症予防や回復支援を実施することで、患者がスムーズに日常生活へ復帰できるようにします。

参考:日本看護協会「認定看護師教育基準カリキュラム(分野:乳がん看護)」

認定看護師について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

出典:日本看護協会「がん医療を支える 看護人材の育成について」

3-3.その他のがん看護に役立つ5つの資格

がん患者のケアには、手術後のリンパ浮腫の管理や静脈疾患への対応、医療情報の提供や心理的支援、さらにはグリーフケア(悲嘆ケア)まで、多岐にわたる専門知識が必要とされています。ここでは、専門看護師と認定看護師以外のがん看護に役立つ資格を5つ紹介します。

資格⑥医療リンパドレナージセラピスト

医療リンパドレナージセラピストは、がんの手術などで発症するリンパ浮腫に対し、医師の指示のもとマッサージや圧迫療法を用いた治療やセルフケア指導を行う人です。リンパ液の流れを改善し、浮腫の進行を防ぐ役割を担います。

参考:日本医療リンパドレナージ協会「リンパ浮腫・医療リンパドレナージセラピストって何?」

資格⑦:弾性ストッキングコンダクター

弾性ストッキングコンダクターは、がん患者の長期間安静や術後に起こりやすい下肢静脈瘤や深部静脈血栓症、リンパ浮腫などの治療に使用する弾性ストッキングの適切な選択・使用指導を行う人です。医師の指示のもと、圧迫圧やサイズの判断、着用指導、経過観察を行います。

参考:日本静脈学会「弾性ストッキング・圧迫療法コンダクター養成委員会 認定制度」

資格⑧:認定がん医療ネットワークナビゲーター

認定がん医療ネットワークナビゲーターは、がん患者や家族に対し、医療・生活支援情報の提供や相談支援を行う人です。地域のがん診療ネットワークと連携し、適切な助言や情報提供を通じて患者の不安を軽減し、必要な医療機関や支援サービスへつなぐ役割を担います。

参考:日本癌治療学会「認定ナビ制度」

資格⑨:臨床心理士

臨床心理士は、臨床心理学の専門知識を活かし、心理的な問題を抱える人々のカウンセリングやサポートを行う心の専門家です。がん患者や家族の精神的ケアを担当し、不安やストレスの軽減を図るほか、治療に対する心理的適応を支援する役割を担います。

参考:日本臨床心理士資格認定協会「臨床心理士とは」

資格⑩:グリーフケアアドバイザー

グリーフケアアドバイザーは、家族や大切な人を亡くした方に寄り添い、心理的・身体的なサポートを行う人です。感情が整理できるようサポートし、必要に応じて専門機関への橋渡しをします。

参考:日本グリーフケア協会「グリーフケアアドバイザー」

4.がん看護に関する気になる質問

がん看護は、専門的な知識と技術を要する分野のため、向いている人や行われている研修など、さまざまなことが気になるものでしょう。そこで、がん看護について調べている方が気になることが多い質問を挙げて回答します。

Q1.がん看護の役割や向いている人は?

がん看護に向いている人は、患者や家族の心身の状態を深く理解し、寄り添いながら適切なケアを提供できる人です。がんの特性や治療法を学び続ける姿勢があり、手術・薬物療法・放射線療法などの副作用管理や症状緩和を的確に行えることが求められます。

また、がん患者の生活や価値観を尊重し、療養環境や就労支援、在宅ケアを含めた包括的なサポートがしたい人も向いています。チーム医療の一員として多職種と協働できるコミュニケーション能力や、患者・家族の意思決定を支える倫理的な視点も必要です。さらに、がんサバイバーシップ支援や予防啓発に積極的に取り組み、専門職として成長し続ける意欲を持つことが大切です。

がん看護に求められるスキルや適性について詳しくは、こちらをご覧ください。
参考:日本がん看護学会「がん看護のコンピテンシー」

Q2.がん看護の一環である緩和ケアとは?

緩和ケアは、がん患者とその家族が抱える身体的・精神的な苦痛を和らげ、より良い生活を送るためのサポートを提供する医療ケアの1つです。かつては終末期の患者を対象とするものと考えられていましたが、近年では診断直後から治療と並行して行うことが推奨されており、がん治療の重要な要素として位置づけられています。

治療の過程で生じる痛みや倦怠感、食欲不振など身体的な症状のほか、将来への不安や生活の変化に伴うストレスなどを緩和し、患者が自分らしく過ごせるよう支援します。

緩和ケアについて詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
関連記事:ONE DOCTOR「緩和ケアを担当する医師とは?仕事内容から資格取得・転職動向まで解説」
参考:がん情報サービス「緩和ケア」

Q3.がん看護ではどのような教育や研修が行われていますか?

がんに関連する看護師への教育・研修の例は下記のとおりです。

1.国立がん研究センターが主催する研修

国立がん研究センターは、がん診療に従事する看護師を対象とした研修を行っています。患者の感情表出を促すコミュニケーションスキル「NURSE」の習得を目的としており、講義やロールプレイを通じて実践的なスキルを高めることができます。

参考:国立がん研究センター「 2024年度 公開がん看護研修 「コミュニケーションスキル」研修 ご案内 」

2.各種学会・職能団体が実施する研修

日本がん看護学会は、各種学会・職能団体が実施する「がん看護実践に強い看護師」育成研修プログラムのモデル案を示しています。

研修内容は、がん治療の副作用管理、精神的支援、症状コントロール、患者教育、療養移行支援、倫理的ジレンマ対応など、がん看護の実践能力向上を目的とています。知識の適用、的確なアセスメント、計画的なケア、評価を基盤とした演習や実習を中心に、多職種連携の学習機会も行います。

参考:日本がん看護学会「がん看護実践に強い看護師育成プログラム」

3.各医療機関が院内教育として実施する研修

全国にあるがん診療連携拠点病院では、専門的ながん医療の提供に加え、地域の医療機関と連携しながら、がん患者と家族への支援や情報提供を行っています。

がん医療の進歩に対応するため、看護師がより高度な専門性を身につけられる教育体制が整えられています。

全国のがん診療連携拠点病院と研修会の詳細についてはこちらでもご確認ください▼
がん診療連携拠点病院等一覧表(令和6年4月1日現在)
厚生労働省「緩和ケア研修会について」

5.まとめ

がん医療の進歩に伴い、看護師の役割はますます多様化し、専門性が求められる時代となっています。特に、症状の緩和、精神的な支援、在宅療養のサポートなど、患者と家族のQOL向上を目的とした看護の重要性は今後も高まるでしょう。

がん看護に携わる方々が、専門知識を深め、実践力を高めることで、より多くの患者とその家族を支えることが可能となります。がん看護に興味がある方は、本記事で紹介した内容を参考にご自身に適しているかどうか考えてみてください。

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