看護のエキスパート「認定看護師」とは?専門看護師との違い・なる方法を解説
看護師としてキャリアアップを目指す際、真っ先に思い浮かぶ資格の1つが「認定看護師」です。認定看護師は、特定の看護分野で高度なスキルを持つエキスパートで、分野ごとにA課程とB課程に分かれています。特に2021年度から導入されたB課程は、医師に代わって特定行為を実施できる資格で、医療現場のタスクシフト・シェアの推進を背景に需要が高まっています。
本記事では、認定看護師の資格の内容や取得方法、必要な時間や費用について解説し、資格取得への第一歩を踏み出せるようサポートします。
1.認定看護師とは
認定看護師は、特定の看護分野で高度な知識と技術を有するスペシャリストで、看護現場において専門性を発揮する資格です。日本看護協会によると、2023年12月時点で全国に24,095人の認定看護師がいます。
認定看護師の制度は2017年以降、社会や医療ニーズの変化に合わせ、見直しが進められてきました。社会により高い水準の看護実践が行える認定看護師を送り出すために、認定看護師制度の再構成の検討を行い、認定看護分野の統合や分野名の変更、認定看護師の目的・役割の改正などが行われてきました。
また、認定看護師の目的についても看護の現場が地域へと広がっていることが期待され「あらゆる場で看護を必要とする対象に」という内容が追加されています。
ここでは、認定看護師の役割や活動について詳しくみていきましょう。
出典:日本看護協会「認定看護師認定者数推移【全国】【都道府県別】(各年12月末の登録者数)」
1-1.認定看護師の役割
認定看護師の役割は、「実践」「指導」「相談」の3つの役割を通じて、看護の質向上に貢献することです。
「実践」では、高度な技術を用いて患者や家族に最適な看護を提供します。例えば、がん治療中の患者には、痛みのコントロールや副作用の緩和などを専門知識に基づいて行い、患者とその家族が少しでも安心して過ごせるよう支援します。
「指導」では他の看護師の手本となり、技術や知識の共有を行います。例えば、新人看護師や専門知識が必要な看護分野での経験が少ない看護師に対し、認定看護師が手順を実践して見せ、理解できるように指導します。また、定期的な勉強会を開催し、最新の看護技術や知識を共有することで、看護チーム全体のスキルアップを図ることも認定看護師の役割です。
「相談」では、現場で直面する問題や疑問に対して専門的なアドバイスを提供し、解決策を導きます。例えば、褥瘡(じょくそう:床ずれ)のリスクが高い患者がいる場合、認定看護師が適切なケア方法や予防策を他の看護師にアドバイスし、患者にとって最適な環境が整えられるよう支援します。
1-2.認定看護師活躍の場
認定看護師の活動場所は多岐にわたり、病院やクリニックをはじめ、訪問看護ステーションや介護保険施設など、さまざまな医療・福祉の現場で活躍しています。医療が高度化し、専門性がより求められる中で、認定看護師は看護のエキスパートとして現場を支える重要な役割を果たしています。
2.認定看護師と専門看護師の違い
認定看護師と専門看護師は、どちらも看護の高度な専門性を有する資格ですが、その役割や取得要件にはいくつかの違いがあります。認定看護師は、特定の看護分野において高度な知識と技術を持ち、患者や家族への直接的なケアに加え、指導や相談も行う役割を担っています。
一方、専門看護師は、特定の看護分野においてさらに高い専門性を持ち、教育や研究活動を通じて看護の発展に貢献することが期待されます。取得には、大学院修士課程の修了が必須で、役割も実践や相談に加えて、教育・研究、倫理調整などが含まれます。専門性がより高く、取得にかかる時間と費用も多く必要です。
項目 | 専門看護師 | 認定看護師 |
資格の特徴 | 患者だけではなくその周囲の人たちを含めたケアを行い、人間関係や地域まで幅広くサポートを行う看護のスペシャリスト | 特定の看護分野の中でもより専門的な領域で高い看護技術を実践するエキスパート |
役割 | 【6つの役割】実践、相談、調整、倫理調整、教育、研究 | 【3つの役割】実践、指導、相談 |
専門分野 | 14分野 | 19分野 |
登録者数(2023年12月時点) | 3,316人 | 24,095人 |
受験資格 | ・5年以上の実務経験 ・大学院修士課程修了 | ・5年以上の実務経験 ・800時間の課程修了 |
教育課程 | 看護系大学大学院修士課程(2年間) | 認定看護師教育機関での教育課程 |
学習形態 | 通常、退職して学ぶ必要がある | 働きながら学べる可能性がある |
費用負担 | 150〜300万円程度 | 120万円程度 |
分野の特徴 | より広範囲な分野(例:がん看護) | より細分化された分野(例:がん化学療法看護、がん性疼痛看護など) |
臨床との近さ | 組織全体や地域レベルでの活動も | より直接的な臨床ケアに近い |
認定看護師と専門看護師の違いについて詳しく知りたい方はこちら▼
専門看護師とは?役割や認定看護師との違い、資格取得の条件や費用まで解説!
3.認定看護の分野にはどんなものがある?
認定看護師制度は、2019年度の制度改正に伴い、2021年度から新たに「B課程認定看護師」が導入されました。現行の認定看護分野であるA課程の21分野の統合や分野名の変更を行われ、B課程は19分野となっています。
A課程については、2029年で終了予定となっていますが、A課程で認定された看護師は資格を保持し続けることができます。ただし、新規の認定はB課程のみとなります。
A課程の認定看護師は、特定行為研修を修了し、所定の手続きを行うことで、現在の認定看護分野と同じ、または統合されたB課程の分野に移行することが可能です。特定行為研修は、どの区分を選んで受講しても問題なく、少なくとも1つの区分の修了が移行の条件となります。
A課程(現行の認定看護分野:21分野) | B課程(新たな認定看護分野:19分野) |
救急看護 | クリティカルケア |
集中ケア | |
緩和ケア | 緩和ケア |
がん性疼痛看護 | |
がん化学療法看護 | がん薬物療法看護 |
訪問看護 | 在宅ケア |
不妊症看護 | 生殖看護 |
透析看護 | 腎不全看護 |
摂食・嚥下障害看護 | 摂食嚥下障害看護 |
小児救急看護 | 小児プライマリケア |
脳卒中リハビリテーション看護 | 脳卒中看護 |
慢性呼吸器疾患看護 | 呼吸器疾患看護 |
慢性心不全看護 | 心不全看護 |
皮膚・排泄ケア | 皮膚・排泄ケア |
感染管理 | 感染管理 |
糖尿病看護 | 糖尿病看護 |
新生児集中ケア | 新生児集中ケア |
手術看護 | 手術看護 |
乳がん看護 | 乳がん看護 |
認知症看護 | 認知症看護 |
がん放射線療法看護 | がん放射線療法看護 |
特定行為研修制度について詳しく書かれた記事はこちら▼
特定行為研修制度とは?修了者ができること・目的・医師側のメリットを解説
4.特に登録者数の多い認定看護分野
認定看護師のA課程では、多くの専門分野が存在しますが、その中でも特に登録者数が多い分野がいくつかあります。以認定看護師のA課程における分野別登録者数(2023年12月時点)は下記のとおりです。
A課程(現行の認定看護分野:21分野) | 人数 |
感染管理 | 3,104 |
緩和ケア | 2,461 |
認知症看護 | 2,007 |
皮膚・排泄ケア | 1,970 |
がん化学療法看護 | 1,576 |
救急看護 | 1,141 |
摂食・嚥下障害看護 | 1,056 |
集中ケア | 978 |
脳卒中リハビリテーション看護 | 741 |
糖尿病看護 | 733 |
がん性疼痛看護 | 724 |
訪問看護 | 677 |
手術看護 | 640 |
慢性心不全看護 | 457 |
新生児集中ケア | 410 |
がん放射線療法看護 | 368 |
乳がん看護 | 352 |
慢性呼吸器疾患看護 | 274 |
透析看護 | 273 |
小児救急看護 | 238 |
不妊症看護 | 170 |
認定看護師のB課程における分野別登録者数(2023年12月時点)は下記のとおりです。
B課程(新たな認定看護分野:19分野) | 人数 |
皮膚・排泄ケア | 763 |
クリティカルケア | 697 |
感染管理 | 549 |
認知症看護 | 309 |
糖尿病看護 | 244 |
緩和ケア | 206 |
がん薬物療法看護 | 205 |
摂食嚥下障害看護 | 173 |
手術看護 | 119 |
呼吸器疾患看護 | 99 |
在宅ケア | 82 |
心不全看護 | 80 |
脳卒中看護 | 63 |
腎不全看護 | 51 |
乳がん看護 | 37 |
がん放射線療法看護 | 31 |
小児プライマリケア | 27 |
新生児集中ケア | 8 |
生殖看護 | 2 |
出典:日本看護協会「都道府県別認定看護師(A課程)登録者数(2023年12月)」
出典:日本看護協会「都道府県別認定看護師(B課程)登録者数(2023年12月)」
4-1.分野別登録者数からわかること
A課程とB課程の認定看護師の分野ごとの登録者数を見ると、分野ごとの人数には大きなばらつきがあります。
中でも、「感染管理」と「皮膚・排泄ケア」は、A課程・B課程ともに上位3位以内にランクインしており、これらの分野が看護業務全体でいかに重要視されているかがわかります。
また、A課程における「救急看護」と「集中ケア」がB課程で「クリティカルケア」として統合され、B課程においては登録者数が2位となっています。これは、急性期や集中治療が必要な患者に対する看護のニーズが高いことを示しています。
4-2.登録者数上位の3つの分野の認定看護師の仕事内容
登録者上位3つの分野における仕事内容や役割について、詳しく見ていきましょう。
(1)感染管理認定看護師
感染管理認定看護師は、医療機関における感染症予防と管理の専門家として、患者や職員の安全を守るために活動する役割を担います。「疫学」や「感染症学」の高度な知識を活かし、施設の状況に応じた感染対策を策定し、実施する能力が求められます。院内感染の予防を徹底することで、患者の健康を守り、医療現場の安全性を向上させるための取り組みをリードします。
感染管理認定看護師の業務は多岐にわたります。詳しくは下記のような業務を行っています。
・病院内の感染状況を把握するために院内ラウンドする
各病棟を巡回して換気の状況や手洗いの実施状況を確認します。改善が必要な箇所を見つけた場合には、現場の医療スタッフに改善を促すとともに、勉強会や研修会を開催して感染防止策の最新情報を提供します。
・感染症に関する相談に応じる
患者や職員からの感染症に関する相談に応じ、対策を講じます。例えば、感染の疑いがある症例について適切な処置方法をアドバイスしたり、感染予防策に関する質問に答えたりします。
・医療関連感染の監査を担当する
医療関連感染の監査の例としては、中心静脈カテーテル関連血流感染や手術部位感染の発生状況をモニタリングし、データを分析して感染の原因を特定します。データをもとに、院内感染を未然に防ぐための具体的な対応策を講じることが求められます。さらに、医療スタッフへの指導も重要な業務であり、針刺し事故を防ぐための安全な器具の使用方法や、廃棄時の適切な処理方法を指導することも行います。
・管理システムや感染マニュアルの作成を行う
アウトブレイク(感染の急激な拡大)に備えた管理システムの構築や感染対策マニュアルの作成を通じて、全スタッフが適切な対応を取れるよう支援することも業務の1つです。
(2)皮膚・排泄ケア認定看護師
皮膚・排泄ケア認定看護師は、創傷(Wound)、オストミー(人工肛門・人工膀胱、Ostomy)、失禁(尿や便の漏れ、inContinence)のケアを専門とする看護師で、熟練した知識と技術を用いて質の高い看護を提供します。2007年に「WOC看護認定看護師」から「皮膚・排泄ケア認定看護師」へ名称が変更されました。
・創傷ケア
創傷ケアでは、皮膚トラブルを予防・治療し、健全な皮膚を維持するために、保湿剤や皮膚被膜剤などを活用したケアを提供します。たとえば、テープかぶれやドライスキンなどのトラブルを防ぐための指導や、褥瘡(床ずれ)を予防するための環境整備を行い、患者に適したマットレスの選定もサポートします。医師と協力して治療計画を立て、最適な創傷治療を進めることも重要な業務の1つです。
・オストミーケア
オストミーケアでは、ストーマ手術を控えた患者に対する事前説明や心理的なサポートを行います。手術後には、患者に合ったストーマ装具を選定し、ストーマ周囲の皮膚かぶれや、装具からの便や尿の漏れなど、トラブルに対する解決方法などを指導します。
また、加齢に伴う身体変化にも対応するため、ストーマ外来では定期的な観察と相談を通じて患者の悩みに寄り添い、生活の質を向上させます。
・失禁ケア
失禁ケアでは、尿や便失禁の改善を目指し、患者に適した用品の提案や排泄物による皮膚炎の予防策を提供します。さらに、骨盤底筋体操や便秘・肥満の改善といった日常生活への指導も行い、失禁の根本的な問題解決を支援します。
(3)クリティカルケア認定看護師
クリティカルケア認定看護師は、生命の危機に瀕した患者への看護を専門とする看護師です。2020年に、従来の救急看護認定看護師と集中ケア認定看護師が統合され、「クリティカルケア認定看護師」として名称が変更されました。
クリティカルケア看護は、1969年にアメリカで誕生した看護領域であり、日本でもその重要性が認識され、2004年に日本クリティカルケア看護学会(JACN)が設立されました。クリティカルケアとは、ICU(集中治療室)やCCU(循環器疾患集中治療室)、救命救急センターなどで提供される高度な急性期看護を指しますが、近年では急性期病棟や手術室、在宅医療などでもその知識と技術が求められています。
クリティカルケア認定看護師は、患者の身体的ケアだけでなく精神面や社会面の支援も行い、家族へのサポートにも注力します。異常の早期発見と全身管理が重要で、患者の生理機能を回復させるために、人工呼吸管理や点滴調整などの高度な技術も駆使します。
5.認定看護師になるには
看護師免許取得後の実務経験と専門的な教育課程の修了が必要です。まず、認定看護師になるには看護師としての通算5年以上の実務経験が求められ、うち3年以上は希望する認定看護分野での経験が必要です。この条件を満たしたうえで、認定看護師教育機関に入学し、約600〜800時間にわたる専門的な教育課程を修了し認定審査を受けることができます。
認定審査は毎年1回実施され、筆記試験で合否が判定されます。合格後は、5年ごとの資格更新が必要です。
6.認定看護師の資格取得にかかる費用と支援制度
認定看護師の資格取得には、教育機関の授業料や審査料などの費用がかかります。一般的に、資格取得にかかる費用は以下のような項目に分かれています。
- 教育機関入学検定料:約50,000円
- 教育機関入学金:約50,000円
- 授業料:約100万円(教育機関や分野によって異なる)
- 認定審査料:約51,700円
- 認定料:約51,700円
これらの費用を合計すると、約120万円がかかります。
ただし、認定看護師を目指す看護師は、日本看護協会が提供する認定看護師教育課程奨学金を利用することが可能です。この奨学金は、認定看護師教育課程や特定行為研修を受講する看護職を支援するための制度であり、年額120万円以内の金額が一括で支給されます。
さらに、支援内容は各医療機関で異なりますが、特に大規模な病院では教育期間中の授業料や審査料、遠方での研修に必要な交通費や宿泊費を助成している場合もあります。
7.まとめ
認定看護師は、特定分野の高度な知識と技術を持ち、「実践」「指導」「相談」を通じて医療の質向上に貢献する職種です。本記事では、認定看護師の役割、専門看護師との違い、取得方法や費用について解説しました。
2021年導入のB課程では医師の代わりに特定行為が可能となり、A課程からの移行も可能です。資格取得には実務経験と600時間以上の教育課程が必要ですが、奨学金や医療機関の支援を活用することで費用負担を軽減できます。
本記事の内容が、認定看護師の取得を検討する際の一助になれば幸いです。
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