ツアーナースとは?病棟看護師との違いや特徴的な仕事内容・活かせる経験まで紹介
病院や施設以外でも活躍の場が多い看護師ですが、学校の修学旅行や企業の団体旅行などの行事、個人・団体の日帰り旅行などに付き添い、その参加者の体調管理や急病・怪我の対応を行うツアーナースというお仕事をご存知でしょうか。
特定の職場があるわけではなく、さまざまな国内旅行や海外旅行に同行できるという点が魅力で、興味を持つ方が多い一方、病院やクリニックでの働き方とは異なるため、現地での働き方などに不安があるという声もあります。
そこで今回は、ツアーナースに興味を持つ方々向けに仕事内容や勤務形態、給料の相場などの情報に加え、ツアーナースとして働く上でのメリットやデメリットなど、ツアーナースの情報を紹介します。
1.ツアーナースとは?
ツアーナースとは学校の修学旅行や移動教室、企業の研修旅行などの宿泊が伴う行事や日帰りの旅行、個人の外出などに同行し、参加者の体調管理や急病、ケガへの対応を行う看護師のことです。
病院やクリニックでの勤務とは異なり、基本的には依頼に対してスポットで派遣されます。特定の職場を持たない点で、医療現場や介護施設との勤務にはない経験やスキルが身につけられます。
2.ツアーナースと病棟看護師、イベントナースとの違いとは?
主に学校や企業の宿泊行事や個人の外出などに同行するツアーナースは、入院施設のある病院に勤務する病棟看護師、スポーツイベントなどにおいて救護活動を行うイベントナースのどちらとも大きく異なります。
それぞれの違いについて、詳しく確認していきます。
2-1.病棟看護師との違い
病棟看護師とは、入院施設のある病院に勤める看護師のことです。クリニックなどに比べて大きな施設であることから、勤務する看護師数も多く、新卒時には病棟看護師として就職するパターンも多くなります。
勤務する場所が決まっていて、そこに通勤するという点からして、ツアーナースとは大きく異なります。ツアーナースは、宿泊行事や旅行に同行するという働き方なため、正社員として決まったシフトで勤務することは少なく、基本的には派遣会社に登録し、単発で勤務するような形になります。
また、病棟看護師では複数人で同時に勤務するのに対し、ツアーナースは自分だけが医療従事者であるケースが少なくありません。病棟のように医療機器や器具が整った場所で看護活動を行うわけではないので、ツアーナースには状況に応じた判断力や対応力、スキルが求められます。
2-2.イベントナースとの違い
ツアーナースとイベントナースは似たジャンルの看護師です。イベントナースはスポーツイベントやライブ会場などの救護室において参加者の看護活動を行います。イベントナースもツアーナースと同様に決まった職場に通うのではなく、派遣での仕事である点は同様です。しかし、大きな違いとしては、イベントナースは当日に終わる仕事が多いですが、ツアーナースは宿泊を伴う場合が多い点です。また、ツアーナースは常に学校や企業に同行しているので、夜間でも緊急の対応が必要となることもあります。
病棟看護師 | ツアーナース | |
勤務先 | 入院施設のある病院に勤務 | 宿泊行事などに同行する |
雇用形態 | 日勤・夜勤、シフト制 | 単発で派遣される (派遣会社に登録) |
勤務人数 | 診療科目ごとに複数人 | 1人であることも多い |
給与体系 | 月給制など | 案件ごとの日給制 |
3.ツアーナースの仕事内容
ここからはツアーナースの具体的な仕事内容を確認していきます。旅行に同行しているときや、必要に応じて発生する事前の業務について紹介します。
3-1.主な添乗先
ツアーナースが主に同行する添乗先は以下のようになっています。
・小・中学校、高校の修学旅行
・小・中学校、高校の林間学校などの移動教室
・企業や団体の社員旅行や研修旅行
・海外旅行や結婚式や発表会、長距離転院、里帰りなどの個人の旅行
この他にも海外への旅行に同行する場合もあります。中でもツアーナースの求人数が多いのは、学校で行う宿泊行事です。
個人の旅行で飛行機を利用する場合は、ツアーナースと飛行機会社が連携し、必要な手続きなどをスムーズに行えるような取り組みも行われています。
3-2.仕事内容
ツアーナースは、参加者の健康状態を把握し、場合に応じて必要な手当てを行います。
ツアーナースの仕事を事前の業務と同行中の業務に分けて解説します。
【事前打ち合わせ】
派遣会社から事前に旅行スケジュールの概要や必要なものの資料は送られてきますが、事前に主催者と打ち合わせを行うこともあります。事前打ち合わせでは、旅行日程の詳細に加え、参加者の持病やアレルギー、服薬などの情報が共有されます。
事前に参加者の健康状態を知ることで、旅行当日に特に気に留めておくべき参加者や、シーンによって個別の付き添いが必要になる参加者が把握できます。
打ち合わせは対面だけでなく、電話で行われることもあります。
【同行中の業務】
旅行に同行しているときは、参加者ではなく看護師としての意識をしっかりと持ち、以下のような業務にあたります。
・健康状態のチェック
長時間の移動や気温の変化は、体調不良を起こす要因になりやすいです。参加者の中には、持病がある方や体調不良を起こしやすい方がいる場合もあるため、健康状態をしっかりと確認することが必要です。
旅行では、体調不良を言い出しにくく、気付いた時にはかなり悪い状態になっていることもあるでぷ!
ツアーナースはこちらからしっかりと声掛けを行い、観察をすることが大切でぷよ◎
・食事・服薬管理
ツアー中は、外食や宿泊先で出される料理を食べることが多いので、食事に含まれている食材を全て把握することは簡単ではありません。そのため、ツアーナースは食物アレルギーを起こさないように特に注意する必要があります。食事がアレルギー対応になっているかどうかを、宿泊先や引率者に確認をしましょう。
バスで長距離を移動する際に、酔い止め薬を飲むように促す声かけや定期的な服薬が必要な参加者に対しては、忘れずに薬を服用できるように管理します。相手への直接の声かけによる確認だけでなく、体調不良時には本人が持参した薬を確認して服薬してもらったり、小学生の以下の幼い参加者に対しては薬を預かって、管理したりもします。
・応急手当、医療機関への受診判断
注意をしていてもケガ人や急病人が発生することは珍しくありません。そのようなときツアーナースは、応急処置や、一次救命措置、ファーストエイドの範囲での処置を行います。処置後も容体の回復が見込めないと判断した場合には、病院への付き添いを行います。
・救急処置に伴う胸骨圧迫、人工呼吸
・AED(自動体外式除細動器)を使用した電気ショック
・血糖値チェック
・エピペンの使用
・検温や血圧測定 など
・傷病者の移動
・熱中症、低体温症への対応
・アナフィラキシーショックへの処置
・出血や骨折などへの応急処置 など
ツアー同行中によくある処置としては、すり傷や切り傷に対してガーゼや絆創膏、包帯を使った応急処置、捻挫へのテーピングを使った応急処置、検温や脈拍のチェックは、ツアーナースが対応する機会が多いものになります。
この他には、一次救命措置の範囲となる気道異物除去、胸骨圧迫や人工呼吸、AEDを使った電気ショック、熱中症の対応や気管支喘息発作への対応、アナフィラキシーショックへのエビペンを使った対応なども必要に応じて実施します。
▼参考:政府広報オンライン「応急手当の知識と技術。いざというときに備えて身につけておきましょう」
日本救急医療財団「救急蘇生法の指針2020(市民用)」
3-3.ツアーに持参するもの
ツアーに同行する上で必要となる着替えなどは自身で用意します。ツアーナースとして必須となる救急バッグは、派遣会社や、派遣先となる学校・企業から支給されます。
・血圧計
・体温計
・パルスオキシメータ
・聴診器
・洗浄綿・アルコール綿
・ハサミ、爪切り
・刺抜き、ピンセット
・絆創膏(大・中)
・パッド付ドレッシング
・自着生伸縮包帯
・消毒液(マキロン等)
参加者の既往歴やツアーの内容によっては、救急セットの内容が追加になる場合もあるようです。
秒針のついた時計は持参した方がいいでぷ。
脈拍や血圧、呼吸数の測定などは時計がないと難しいため、自身で準備しておくでぷ!
4.ツアーナースの勤務スケジュール例
ひとつの例として、修学旅行に同行する場合のツアーナースの当日のスケジュールを紹介します。
・救急バッグを受け取る ・先生と軽くミーティング ・生徒や児童にあいさつ ・児童の健康状態をチェック ・酔い止め薬を飲むように指示
・エチケット袋をすぐ出せるように準備 ・乗り物に酔いやすい児童を注視
・体調を崩している児童がいないかチェック ・施設の休憩所や管理室などの場所を把握しておく
・食事内容にアレルギーなどの問題がないかチェック ・服薬が必要な児童に適宜指示、服薬管理
・児童の体調の変化に留意する
・ホテルの環境、AEDの設置場所などを確認 ・常駐の看護師がいれば挨拶・申し送り ・自分の荷物を置いたら児童の部屋を周り、体調不良時には遠慮せずに相談することを周知 ・体調が悪い児童がいたら対応する
・食事内容にアレルギーなどの問題がないかチェック ・服薬が必要な児童に適宜指示、服薬管理
・児童の体調不良に随時対応
・先生たちとミーティング
・児童の部屋を巡回、体調不良の児童がいないか確認
・入浴
・早めに会場入りして、食事内容をチェック 服薬が必要な児童に適宜指示、服薬管理
前日と同様に行程に合わせて活動する
ツアーナースは、参加者である児童員全と初対面です。そのため、「話しかけやすい雰囲気」を意識し、積極的に児童と交流することが重要となります。宿泊先では、自身がどの部屋にいるかを児童にきちんと伝え、体調不良やケガなどのときに気軽に来られるようにしておきます。
また、旅行の2日目以降は体調を崩す児童が多い傾向があるので、全行程が終了し解散するまで気を抜かずに児童の体調に留意します。
5.ツアーナースになるメリット
ツアーナースとして働くことで感じられるメリットとしては、以下のようなものがあります。
・仕事で観光地に行ける
・楽しく旅行する人を見て、楽しい気分になれる
・病院では身につけづらい現場での経験や知識が得られる
・毎回職場(派遣先)が変わるので、人間関係に悩むことがない
・自分の都合に合わせて仕事を調整できる
働く場所に縛られず、同行する団体や学校も毎回異なるツアーナースは、常に新鮮な気持ちで業務にあたれます。また参加者の持病や服薬事情などを考慮して柔軟な対応が求められるツアーナースは、やりがいや達成感を大きなものがあります。
6.ツアーナースになるデメリット
一方でデメリットもいくつかあります。
・すべて単発の仕事となるので仕事や収入が不安定になる
・医療者が自身だけのことが多く、判断への責任が大きい
・自身が体調不良でも他のスタッフに代わってもらうことが難しい
・深夜でも対応することがあり、同行中は業務時間が長くなりがち
ツアーへの同行中、いつ参加者が体調不良を起こしたりケガをしたりするかは分かりません。そのため、深夜や早朝も含めて、完全に気を抜くとはできません。また、同行する看護士は自分だけであることが多く、また、スポットで派遣されるため、自身の急用や体調不良があっても代わりのスタッフ派遣は困難です。責任が大きい一方で、全て単発の仕事であるため、収入が安定させにくい点もデメリットとして挙げられます。
7.ツアーナースの給料相場は?
ツアーナースは同行する案件に対してスポットで勤務する形になるため、給料は日給制の場合が多いです。ツアーナースの平均日給としては12,000~15,000円が相場となります。ツアーの事前打ち合わせでは時給が発生します。宿泊費や交通費は主催者の負担となるので、給料から差し引かれることはありません。
8.ツアーナースになるには?
スポットでの勤務が可能なツアーナースは、自身の予定に合わせて働くことができる魅力的な職種ですが、ツアーナースになるために必要な資格などはあるのでしょうか。この章では、必要な資格やツアーナースに求められる経験やスキルについて紹介していきます。
8-1.必要な資格はある?
ツアーナースになるために必要な資格は「看護師免許」または「准看護師免許」です。ただし、案件ごとに条件が設定されているので、看護師資格がないと応募できないケースや、特定の地域在住でないと応募できないケース、実務経験が3年以上必要なケースなど、さまざまです。
8-2.求められる経験やスキル
ツアーナースは、同行中に起きたケガや病気に対する判断を問われる責任者になるケースがほとんどです。病院やクリニックであれば、同僚や医師に相談しながら対応できますが、ツアーナースは、自分ひとりで判断をし、引率の先生や施設のスタッフに指示をしなくてはなりません。ツアーナースを目指すなら、判断力や対応力が問われる仕事だと認識しておく必要があるでしょう。
また、小学校低学年までの幼い児童の対応をする際は、児童本人が症状を上手く言葉にして伝えられないことが珍しくありません。何かのトラブルが発生して児童たちがツアーナースを呼びにきても、どんなことが起きたのかが上手く伝えられず、現場に着くまで把握できないこともあります。転んでしまった児童が、痛くて泣いてばかりで会話ができないのなら、どこが痛いのか指さしてもらうなど、相手に合わせて柔軟なコミュニケーションを取ることが求められます。
看護師としての経験のうち、ツアーナースをする上で特に役立つのは小児科、一般外科・内科、整形外科、救急外来などの経験です。子どもならではの気管支喘息やアレルギー疾患への対応をするケースは小学生の修学旅行や移動教室では多くあります。小児科の経験がない場合には、まずはツアーナースとして中高生や小学校高学年への同行から始めてみるとよいでしょう。
9.まとめ
ツアーナースは他の看護職にはない独自の働き方ができる魅力的な仕事です。ツアーナースを専門に派遣する会社もあるので、案件探しはそれほど難しくはありません。まずは専門会社に登録し、どのような業務体制・給与体系なのか確認してみるとよいでしょう。今回の記事がツアーナースに興味を持つきっかけになれば幸いです。
参照:日本ツアーナースセンター「ツアーナースのお仕事について」
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