IVナースとは?静脈注射スキルが注目されている理由・なり方・やりがいなどを解説
静脈注射は看護師にとって不可欠な技術の1つですが、高いレベルを要するものもあり、苦手意識を持っている看護師も多くなっています。
そんな中、静脈注射に関する専門的な知識と技術を持ち、各病院で実施されている独自の研修や院内認定制度を経て認定された看護師である「IVナース」は、チーム医療の推進や医師の業務量増加の改善に期待されているなど、そのニーズが高まっています。
本記事では、IVナースとは何か、どのような業務を担っているのか、育成プログラムの具体例や、IVナースとして働くうえでのやりがいとつらさまで詳しく解説します。

1.【注射スキルの重要性】苦手を克服した方がいい?
看護師なのに注射が苦手なことに不安を抱えている方は少なくありません。これまで注射業務が少ない職場で働いていた方や、経験の浅い新人看護師、ブランク明けの方だけではなく、病院経験が長い看護師でも苦手意識を持っている方は多くいます。
苦手な業務を避けたいところですが、看護師等が行う静脈注射に関する調査では、「94%の医師が看護師・准看護師に静脈注射を指示している。」というデータがでています。
また、静脈注射を日常業務としてしているか否かというデータでも「いつも:73%、大体:17%」と約90%の看護師が日常業務としていることが分かりました。

このように医師ではなく看護師が静脈注射を担う場面が増えており、難易度の高い静脈注射に対応できる知識や経験・資格を持つ「IVナース」の需要が高まっています。
実際に多くの医療機関では、IVナースの育成に力を入れ始めており、静脈注射は看護師としてのキャリアを左右する重要な技術ともいえます。診療科目や医療機関の規模によって求められるスキルは異なりますが、レベルの高い静脈注射を行えることが採用の判断材料になる場合もあります。
出典:厚生労働省「看護師等が行う静脈注射(調査結果)
出典:株式会社東京・サウンドプロダクション「看護師がおこなう静脈注射 静脈注射」
2.IVナース(静脈注射看護師)とは
IVナース(静脈注射看護師)とは、患者に対する静脈注射を専門とする看護師のことで、医療現場で重要な役割を担っています。
静脈注射に関する専門的な知識と高度な技術を習得し、各病院が独自に定める研修や認定試験を経て、IVナースになることができます。
具体的な業務として、患者の状態を評価し、適切な静脈ルートを確保することや、副作用や合併症を未然に防ぐための観察と判断を行います。
また、患者への説明と安全な手技を心がけ、恐怖や不安を和らげる対応も重要です。IVナースは、医療チームの一員として患者の健康回復に貢献する、専門性の高い職種です。
2-1.IVとはそもそも何のこと?
IVとは「intravenous injection」を省略したもので「静脈注射」のことを指します。その他、静注と略されることもあります。
静脈注射は2種類に大別でき、静脈注射(ワンショット)と点滴静脈内注射に分かれます。
・静脈注射(ワンショット)
薬剤や液体を単回で静脈内に直接投与する方法です。この方法は静脈内ボーラス(IV Push)とも呼ばれることがあり、比較的短時間で薬剤を血流に送り込むため、即効性が求められる場合に用いられます。
・点滴静脈内注射
薬剤や液体を静脈を通じて比較的ゆっくりと持続的に体内に投与する方法です。一般的には、「IVインフュージョン」や「IVドリップ」とも呼ばれます。
どちらも薬物や栄養を直接血管内に投与する方法であり、迅速かつ効果的な治療が求められる場面で頻繁に利用されます。
出典:厚生労働省「医療事故防止のための要点と対策 -注射ー」
3.看護師による静脈注射の実施範囲
静脈注射を主に行っているのは看護師であり、高度な技術を持つIVナースが求められていますが、実際の静脈注射の実施範囲や体制はどのようになっているのでしょうか?
3-1.静脈注射は「診療の補助行為」として認められている
看護師等による静脈注射は、医師の指示に基づいて行われる「診療の補助行為」とされており、厚生労働省の通知(医政発第0930002号)でも明確に位置づけられています。

厚生労働省が実施した看護師の行う静脈注射に関する調査によると、看護師の87.6%が静脈注射を実施可能な範囲にあるとされています。また、医師の94%が看護師や准看護師に静脈注射を指示しているという実態も示されており、現場において看護師の静脈注射が一般化していることがうかがえます。
3-2.実施範囲の明確化と体制整備が必要とされている
静脈注射に関する業務は「診療の補助」に該当するため、看護師が安全に実施できるよう、業務内容の明確化や教育体制の整備が必要とされています。具体的には、以下のような取り組みが医療機関・養成所の双方に求められています。
(1)医療機関における対応
- 看護師を対象とした研修の実施
- 静脈注射に関する施設内基準や看護手順の整備・見直し
- 個々の看護師の能力に応じた適切な業務分担の実施
(2)看護師等学校養成所における対応
薬理作用・注射技術・感染対策などの教育内容の見直しと必要に応じた強化
これらの取り組みにより、看護師が静脈注射を安全かつ適切に実施できる体制を整え、患者の安全と医療サービスの質向上につなげることが必要とされています。
3-3.静脈注射の技術指導の例
医療機関や看護師等学校養成所での静脈注射の教育について、厚生労働省は「与薬の技術 ~点滴静脈注射~」をテーマにした指導例を提示しています。
【到達目標】
点滴静脈注射の基本を理解し、安全に実施できるようになること
【到達までの期間】
6ヶ月~12ヶ月を想定
【看護技術を支える要素】
・静脈注射の法的位置づけの理解
・清潔操作・患者説明・薬理知識の習得
・アセスメントに基づく適切な実施と管理
・器具の安全な破棄方法の理解
【研修方法】
集合研修:知識確認、モデル演習、標準予防策の理解
現場見学:実際の場面を観察し理解を深める
シミュレーション研修:実地指導者と演習を行い、評価
実施・評価:チェックリストを用いて実施後に振り返りと評価を行う
静脈注射の教育の詳細については厚生労働省「技術指導の例」をご確認ください。
出典:厚生労働省「看護師等が行う静脈注射(調査結果)」
出典:厚生労働省「看護師の業務範囲の基本的な考え方」
4.IV(静脈注射看護師)ナースを学ぶための教育プログラム
IVナースとして認定されるためには、静脈注射に関する高度な知識と技術、安全管理や法的責任に対する理解が不可欠です。
育成の一般的なステップは、「講義」「実技演習」「筆記試験」「実技試験」で構成されており、一定の水準を満たした者がIVナースとして認定されます。
ただし、育成内容や基準は医療機関ごとに異なり、全国共通の標準プログラムが存在するわけではありません。それぞれの病院や施設が、自院の診療体制や看護体制に合わせて独自の教育・認定制度を整備し、安全で安楽な静脈注射を提供できる人材の育成を行っています。
以下では、教育体制の例として、2つの医療機関が公開しているIVナース育成プログラムの概要を紹介します。
4-1.必要な知識と手技を標準化・可視化できる教育ステップ
ある医療機関では、IVナースの知識と手技を標準化・可視化するために、明確な評価基準をもとに構築された4つのステップ(講義・実技演習・筆記試験・実技試験)からなる教育プログラムを導入しています。
単に知識や技術を教えるだけでなく、一定水準に達していることを客観的に確認できる仕組みです。
ステップ1:静脈注射講義
患者看護、薬剤知識、解剖生理、感染管理、安全管理、法的責任など、静脈注射に関する幅広い基礎知識を再確認します。
ステップ2:実技演習
手技の安全性や手順の正確さに重点を置きながら、実際の注射動作を繰り返し練習します。
ステップ3:筆記試験
知識の習得状況を客観的に評価し、技術と知識の両面から認定基準を確認します。
ステップ4:実技試験
受講者が安全かつ安定した手技を発揮できるかどうかを評価者がチェックします。
認定後のスキル維持と向上を目的として、更新制度を導入していることも特徴の1つです。
この教育プログラムを活かし、地域の看護職員を対象にした講座を開催し、静脈注射に関する正しい知識の普及も進めているそうです。
参考:九州大学病院看護キャリアセンター「静脈注射認定看護師(IVナース)育成プログラムとワーキングの取り組み」
4-2.IVナース認定後もステップアップができる育成体制
ある医療機関では、IVナースの育成を単一の資格制度にとどめず、段階的な教育・認定制度を導入し、看護師がステップアップしながらスキルを高められる仕組みを整えています。
育成の基盤となるのは、患者に対して静脈注射やルート確保を安全に行う「IVナース」です。静脈注射に必要な知識や技術に加えて、薬剤の取り扱いや感染予防、法的な責任についても研修で学びます。研修を修了した後は、技術チェックテストを受け、合格した看護師が院内認定を受ける流れとなっています。
特徴的なのは、IVナース認定後のキャリアステップがある育成プログラムになっている点です。
次の段階には、IVナースの育成や技術評価、さらに後輩への技術指導やチェックを通して、現場全体の技術力向上に貢献する役割を担う「IVインストラクター」があります。
最上位にあたるのが「インジェクショントレーナー」です。院内の静脈注射教育を全体的に推進するとともに、IVインストラクターの技術認定を行います。
研修運営や評価体制の構築にも関わり、静脈注射技術の質を組織全体で保つための中心的な役割を担っています。
参考:群馬大学医学部附属病院看護部「IVナース・CVナース」
5.IVナース(静脈注射看護師)のやりがい
この章では、IVナースのやりがいについて解説します。
5-1.責任の大きさと達成感の両立
IVナースは、医師が行っていた静脈穿刺や注射を看護師自らの手で担う役割を持っています。そのため、1本のルート確保にも大きな責任が伴い、失敗すれば患者さんの身体的・精神的な負担につながるだけでなく、信頼関係にも影響を与えることがあります。
技術面への不安や「絶対に失敗できない」というプレッシャーを感じる場面も少なくありません。その分、処置が成功したときには大きな達成感を得られ、自分の成長を実感できるでしょう。
5-2.患者に寄り添ったケアの実現
看護師自身が穿刺や注射を行えることで、処置のタイミングを患者の状態や希望に合わせて調整しやすくなります。
医師を待たずに対応できることで、患者の不安や待機時間を減らすことが可能です。
5-3.チーム内での信頼と存在感の向上
IVナースの資格を取得したことで、病棟内での役割がより専門的なものになります。抗がん剤の副作用対応や注射手技の指導など、他の看護師から頼られる場面も増え、チーム医療において信頼される存在になれるでしょう。
5-4.キャリア形成と自信につながる経験
IVナースとしての認定は、キャリアアップを目指す看護師にとって大きなステップになります。診療科が変わっても通用する専門技術として、長く活かせるスキルが身につきます。
6. IVナース(静脈注射看護師)のよくある質問
ここでは、IVナースに関するよくある疑問についてわかりやすく回答します。
Q1.看護師が静脈注射ができるようになったのはなぜ?
かつて、静脈注射は「医師または歯科医師のみが行うべき行為」とされており、看護師が行うことは原則として違法とされていました。
しかし、医療現場の実態として、医師の指示のもとで看護師が静脈注射を行う必要性が高まっていたことを受けて、2002年(平成14年)9月、厚生労働省は「看護師等が行う静脈注射は、診療の補助行為として取り扱う」とする通知(医政発第0930002号)を発出しました。
この通知によって、医師または歯科医師の指示の下であれば、看護師が静脈注射を行うことは合法であり、診療の補助行為として認められるようになりました。
Q2.CVナースとは?
CVナースは、CVポート(中心静脈ポート)の穿刺や管理に関する専門的な知識と技術を持つ看護師です。
CVポートは、小型のリザーバーとカテーテルからなる体内埋め込み型の医療機器で、長期間にわたり点滴や薬剤投与が必要ながん患者などに使用され、正確で安全な操作が求められます。
CVナースは、他の看護師からの相談対応や指導、ケア方法の調整といった教育的な役割も担っています。
7.まとめ
IVナースは、単なる注射の技術者ではなく、医療チームの中で高度な知識と技術を駆使し、安全で質の高い医療の提供を支える看護師です。
本記事では、IVナースの役割や育成プログラムの例、やりがいやつらさなどについて解説しました。
看護師自身が注射や点滴を担う体制が浸透しつつある今、IVナースの果たす役割はますます重要になっています。
今後も医療の高度化・多様化が進む中で、IVナースの育成と活用はさらに広がっていくでしょう。

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