子どもの不安を和らげる「プレパレーション」とは?目的・方法・実践例を解説
病院で過ごす時間は、子どもにとって日常とは異なる体験です。検査や処置に向き合うとき、何が起こるのかわからないために不安や恐怖を抱えることは珍しくありません。
そのような子どもの心に寄り添い、少しでも安心して医療と向き合えるようにする関わり方がプレパレーションです。
現在、小児医療の現場ではプレパレーションの重要性が広く認識されるようになり、この数年で、プレパレーションに関する文献や研究が増え、臨床現場においても学習会や研修会などが盛んに行われ、その理念は広がりを見せています。
一方で、日々の業務のなかで実践の機会を持てず、必要性を感じながらも十分に活用できていないという声もあります。
本記事では、プレパレーションの目的や実施方法、現場での実践例までをわかりやすく紹介します。

1.プレパレーション(プリパレーション)とは
プレパレーション(プリパレーション)とは、子どもが検査や治療、入院といったさまざまな出来事に対して、少しでも安心して臨めるようにするサポートのことです。
子どもは、何が起こるのかわからないときに特に強い不安を感じます。プレパレーションでは、検査や処置の内容、入院生活の流れなどを、子どもの年齢や発達段階に合わせてわかりやすく伝える工夫がなされます。
ときには絵本や模型、ぬいぐるみを使って遊びの中で説明することもありますし、子ども自身が登場人物になったロールプレイを通じて体験を疑似的に再現することもあります。
プレイ・プレパレーション(Play Preparation)
ごっこ遊びや絵本、ぬいぐるみなどで医療行為を疑似体験する方法
ディストラクション(Distraction)
処置中の不安や痛みを軽減するため、気をそらす手法。音楽、動画、玩具などを使用する
ポスト・プロシージャー・プレイ(Post Procedure Play)
検査後にストレスを解消し、感情の整理と回復を促す遊び
これにより、子どもは「理解できた」「準備ができた」と感じ、自分なりに気持ちを整えることができるのです。
また、子どもは「こわいけど、やってみよう」「終わったらがんばったって言えるかも」と前向きな気持ちを持ちやすくなります。
さらに、将来的に医療に対する不安や抵抗感を減らし、健全な心の発達にも良い影響を与えるとされています。
出典:神道那実, 大西文子, 岡田摩理, 遠藤幸子, 鳥居賀乃子,小児看護におけるプレパレーションの実施状況と影響要因から考えられる課題,日本小児看護学会誌,Vol.31 169-177,2022
1-1.プレパレーションとディストラクションの違い
プレパレーションは、これから受ける医療行為について事前に説明し、子どもが納得して準備ができるようにする方法です。
入院や手術など比較的大きな医療処置を控えている場合や、説明を理解できる年齢の子どもに対して効果的です。
一方で、ディストラクションは「注意をそらす」ことに焦点をあてた支援方法で、予防接種や採血など、短時間で終わる処置において効果的です。
それぞれの違いや具体的な声掛けの例は下記のとおりです。

参照:涌水理恵,予防接種を受ける子どもおよび保護者への対応 −プレパレーションとディストラクション−,筑波大学,特別記事
1-2.プレパレーションの目的・意義
プレパレーションの目的・意義は下記の3つが重要と言われており、これらを会話や遊びに組み込むことで高い効果を発揮します。
①子どもに情報を正確に伝えること(うそはつかない)
引用文献:田中 恭子(2008),プレパレーションの5段階について,小児看護,vol.31(5),542-547
②情緒的表出を後押しすること(子どもの気持ちを表出できる機会をつくること)
③病院スタッフと信頼関係を築くこと(一緒に頑張ろうとする気持ちを伝えること)
1-3.プレパレーションの必要性
近年では小児医療の現場でプレパレーションの重要性が高まりを見せています。
しかし、小児病棟・小児科外来で働く小児看護経験のある看護師741名へのアンケート調査において、99.6%がプレパレーションの必要性を認識している一方で、直近3ヶ月以内に実施した経験があると答えたのは半数に満たない結果でした。
この結果からは、プレパレーションの必要性は十分に理解されているにもかかわらず、日常的な実践として定着していない現状がわかります。
2.プレパレーションの5段階
プレパレーションは、下記5つの段階に分類できます。各段階で行うことや目的などについて詳しく見ていきましょう。
第1段階:受診時
子どもや保護者の背景を把握する段階です。
受診前に家庭でどのように子どもに説明をしているか確認し、親と子の認識や感情を把握します。
また、年齢や発達段階、過去の医療経験、好きな遊びやキャラクターなどを丁寧にヒアリングし、適切な関わり方を考えます。
入院となる場合は、外来と病棟が同じツールや伝え方を用意し、説明の一貫性を持たせることが大切です。
第2段階:入院・処置のオリエンテーション
入院や処置の流れについて、子どもが安心できるように伝えます。性格や理解度に応じてプレパレーションの計画を立てます。
子どもが来院してからの最初の関わりでは、表情や体の反応、遊び方などから心身の状態を観察します。
そのうえで、入院生活や予定されている検査・処置についてのオリエンテーションを行います。
プレパレーションを進めるうえでは、子どもの理解力や性格、親の気持ちも含めてアセスメントを行い、説明のタイミングや方法、使用する道具(ぬいぐるみ、絵本、模型など)を柔軟に選びます。
第3段階:真実に基づく説明
子どもがこれから経験する検査や処置について、おもちゃや実物を用いてできる限り事実に基づいて説明します。
ただし、情報を伝えること自体が目的ではなく、「子どもが理解し、安心できるかどうか」が重要です。
模型や絵カードといった視覚的なツール、語りかけ、実際に器具に触れるなどの触覚的な体験を組み合わせながら、子どもの五感を通じてイメージが湧くような説明を心がけましょう。
単に道具を見せるのではなく、「これ、ちょっと冷たいかもね」「この匂い、どんな匂いがする?」など、問いかけを交えることで、子どもの気持ちを自然に引き出すことができます。
子どもの表情や反応を見ながら、少しずつ丁寧に関わることが大切です。
第4段階:処置中のサポート
処置中の不安や痛みを和らげるため、意識を医療以外に向けます。絵本や会話、映像などを使い、気持ちをそらします。
処置や検査中には、不安や痛みを和らげるため、子どもの注意を医療行為からそらす「ディストラクション」が効果的です。
絵本の読み聞かせ、音楽を流す、タブレットで映像を見せる、簡単な会話や数唱など、発達段階に合ったコミュニケーションを行うことで緊張をほぐします。
保護者の同席や抱っこも安心させる方法の1つです。
第5段階:処置後・退院後の対応
検査や処置を終えたあとは、子どもの気持ちを受け止め、心の整理を促します。
処置を終えた子どもの頑張りをしっかりと褒め、努力をきちんと評価することで達成感と安心感を育みます。
ごほうびシールや修了証、ちょっとしたメッセージカードなど、形に残るものを利用することで、子どもの頑張りが可視化され、自己肯定感を育みやすくなります。
さらに、病院での体験を子ども自身が遊びの中で再現する「ごっこ遊び」によって、今回の体験を自己消化できるよう促すことも大切です。
3.プレパレーションの実践例 (採血・点滴の場合)
採血・点滴を例に、処置が「決まったとき」「行っている最中」「終わったあと」に分け、それぞれの段階でどのようなケアが求められるのかを見ていきましょう。
3-1.採血・点滴をすることが決まったら(プレパレーション第1~第3段階)
子どもにとって採血や点滴は、痛みだけでなく「なにをされるのかわからない」ことへの不安もあります。
だからこそ、処置の前にどこで行うのか、どのような体勢でするのか、どんな感覚があるのかを、子どもが理解できる言葉と方法で丁寧に伝えることが大切です。
過去の医療体験や性格を踏まえ、どのような反応が予想されるかを事前に把握しながら、その子に合った説明を行いましょう。
例えば「ここで横になってするよ」「冷たいアルコールでおててを拭くね」「ちょっとチクッとするかもね」といった具体的な言葉を用いることで、心の準備を整えやすくなります。
説明には、キワニスドールやぬいぐるみ、パペット、絵本、実際に使用する医療器具などを使い、視覚的・体験的に伝える工夫が効果的です。
また、処置中に読み聞かせる絵本や、終わったあとに貼るシールを子ども自身に選んでもらうなど、自己選択の機会を設けることで処置への主体性を高めることができます。
3-2.採血中(プレパレーション第4段階)
採血の最中は、子どもにとって緊張と恐怖が最も高まる瞬間です。このとき、そばに信頼できる人がいることで安心しやすくなります。
子どもが不安を感じにくくなるよう、処置中はさまざまな方法で気をそらす「ディストラクション」も効果的です。
お気に入りの音楽を流したり、光や音の出るおもちゃで遊んだり、映像を見せたりすることで、注意を医療行為から外に向けることができます。
また、「いち、に、さん…」と一緒に数を数えるだけでも、子どもの集中をそらし、処置への負担を和らげられます。
3-3.採血、検査、処置後(プレパレーション第5段階)
採血や検査のあとには、あらかじめ選んでおいたご褒美シールを渡し、「がんばったね」「動かないでいてえらかったね」など、行動をほめましょう。
短時間の処置でも、子どもにとっては長く感じられるものです。保護者にも、子どもが感じた不安や緊張を共有できるよう、医療者がその場で「〇〇ちゃん、とてもがんばっていましたよ」と伝えることで、家庭でも一緒にその努力を認め合う機会が生まれます。
最後にしっかりと認めてもらえることで、苦しかった記憶も「乗り越えられた体験」として記憶に残るようになります。
また、処置後のごっこ遊びは、子どもが経験した出来事を消化し、自分のペースで受け止め直すための大切な手段です。
ぬいぐるみやお医者さんセット、キワニスドールなどを使って、子ども自身が「先生役」や「看護師役」になりきることで、処置の場面を再現しながら心の整理をしていきます。
参考:沖縄県立看護大学「プレパレーションの実践にむけて 医療を受ける子どもへの関わり方」
4.看護師がプレパレーションをやる上で大切なこと
プレパレーションを成功させるために大切なのは、「誰に」「どのように」「どのタイミングで」関わるかを柔軟に考え、子どもと保護者の安心と納得に丁寧に向き合うことです。
プレパレーションにおける大切なことについて5つ解説します。
4-1. 子どもと保護者の気持ちに寄り添うことから始める
プレパレーションは「説明の技術」ではなく、「心を通わせる関わり」から始まります。
どれだけ丁寧に説明しても、それが子どもや保護者の気持ちとずれていれば、安心や納得にはつながりません。
大切なのは、目の前の子どもが何に不安を感じ、保護者がどんな思いで寄り添っているのかを、言葉と表情の奥から丁寧に感じ取ろうとする姿勢です。
保護者の多くは、これまで自分なりに子どもに説明を行い、「どう伝えるべきか」と悩みながら対応してきています。
その積み重ねを無視して医療者が一方的に説明を始めてしまえば、信頼関係に溝が生まれてしまうこともあります。
まずは、「これまでどう話してこられましたか?」「いま、お子さんがどう受け取っていそうですか?」と、保護者の視点や思いに耳を傾けることが大切です。
子ども自身も、言葉で「不安だよ」「こわいよ」と伝えられるとは限りません。泣いている理由が処置そのものとは限らず、眠気や空腹、環境の変化による不快感かもしれません。
だからこそ、子どものちょっとした仕草や表情、声のトーンに目を向け、その裏側にある「声にならない気持ち」を代弁してあげることが大切です。
「イヤなんだね」「ドキドキしてるのかな」と共感的な言葉をかけるだけでも、安心しやすくなります。
白衣やマスクといった“医療者らしさ”は、子どもにとっては威圧感を与えることもあります。
柔らかい色のユニフォームや、キャラクター付きのエプロンなど、見た目に親しみを持たせる工夫も方法の1つです。
4-2. 保護者と一緒に行うことで、子どもに安心感を
子どもにとって、医療の現場はどうしても緊張や不安を感じやすい場所です。そんななかで、もっとも安心できるのは、信頼する人がそばにいることです。
プレパレーションの場面でも、可能な限り保護者と一緒に行うことが、子どもにとっての「心の拠りどころ」となります。
また、保護者が普段の家庭で使っている言葉で、医療の内容を言い換えて伝えると、子どもにとってはより理解しやすくなります。
医療者が「注射」と説明した内容を、保護者が「チクッとするお薬だよ」と言い換えるだけで、子どもの中にあるイメージは柔らかいものになります。
保護者自身が説明の場に立ち会い、理解を深めることで、家庭でも自然なかたちで子どもを支える力が育まれていきます。
同時に、プレパレーションの場が「正解を聞く場」ではなく、「わからないことを聞いていい場」であることも伝えていくことが大切です。
子どもがスタッフに「それなに?」「やらなきゃダメなの?」と気軽に尋ねられる雰囲気は、安心と信頼の土台となります。
4-3. 子どものペースを尊重し、わかりやすく伝える
プレパレーションは、「すべてを説明すること」が目的ではありません。大切なのは、子どもが自分のペースで、納得しながら受け入れられるかどうかです。
一度に多くの情報を与えようとすると、子どもは混乱しやすくなり、不安が膨らんでしまうこともあります。たとえ内容の正確さに自信があっても、相手がどれだけ理解できているかに意識を向けなければ、本当の意味では伝わったとは言えません。
子どもと話すときは、できるだけ目線を合わせ、穏やかな語り口で関わるようにしましょう。
「これはこうだよ」と一方的に伝えるのではなく、「これ、どう思う?」「どこが気になったかな?」といった問いかけを通して、子どもの内側にある反応を引き出すことが大切です。
「何か聞きたいことある?」「この中で一番気になったのはどれだった?」など、自由に話せる雰囲気をつくる問いかけも効果的です。
大人にとっては当たり前に思える内容でも、子どもはまったく別の視点で疑問を感じていることがあります。
4-4. 気持ちを否定せず、正直に寄り添う
子どもが「怖い」と感じる場面では、大人はついその気持ちを和らげようと、「痛くないよ」「大丈夫だよ」と言ってしまいがちです。
しかし、その一言が、子どもにとっては「本当のことを教えてくれなかった」と記憶に残ってしまうことがあります。
医療の現場で本当に大切なのは、不安や涙にふたをすることではなく、その感情に居場所を与えることです。
処置を前に怖がっている子に対して、「そんなに怖がらなくていいのに」と言うのではなく、「怖いって思うよね。わたしも小さい頃は注射がこわかったよ」と、共感をもって声をかけましょう。
大人が自分の体験や正直な気持ちを共有することで、子どもは「わかってくれてる」という安心感を得ることができます。
子どもは理屈よりも「今の気分」に大きく影響されます。数分前まで泣き叫んでいた子が、ふとした拍子に笑い出し、前向きに変わることもあります。
大人ができるのは、子どもの感情を「よし」と認め、そのそばに立ち続けることです。子どもが感じたそのままの気持ちに、「そう思うのは当たり前」と応えることが大切です。
5.まとめ
プレパレーションは、ただ子どもに説明をするための「手段」ではなく、子どもの心に寄り添い、安心して医療に向き合えるように支える「関わり方」です。
今回ご紹介したような段階的な関わりや工夫は、すべての看護の場面に応用できます。絵本や人形がなくても、視線を合わせて声をかける、気持ちを受け止めて伝えるなど、その1つひとつが立派なプレパレーションです。
プレパレーションは特別なスキルではなく、日々の看護の延長線上にあります。この記事が、プレパレーションの実践のヒントとして役立てば幸いです。

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