【現役看護師の経験談を紹介】医療特化型有料老人ホームで働く看護師の実際とは?

看護師 老人ホーム

超高齢化社会が進む日本では、慢性期病床の総数が減少しており、病床不足が深刻化しています。そのため、病院での長期入院は難しく、医療依存度の高い方々の退院先が不足しており、在宅生活に不安を抱えている方がいます。そこで、注目されているのが医療特化型有料老人ホームです。

医療特化型有料老人ホームでは、家族だけでの対応が難しい疾患や障害を抱える方が安心して生活を送れるように、医療と介護が一体化したサービスを提供しています。また、高齢者を支える地域包括ケアシステムとしても期待されており、近年需要が高まっています。

今回の記事では、そんな医療特化型有料老人ホームで働く看護師さんにインタビューをさせていただき、その仕事内容や待遇、病棟看護師との違いなど実体験をもとに紹介をします。

1.医療特化型有料老人ホームとは?

医療特化型有料老人ホームは、基本的に看護師が24時間常駐している場合が多く、介護だけではなく、医療ケアが必要な方々に日常生活のサポートを行う老人ホームです。

欧米での名称でナーシングホームと呼ばれることもありますが、日本での明確な定義はなく、医療体制を備えた民間運営の住宅型有料老人ホームに該当します。

医療特化型有料老人ホームでは、要支援・要介護で末期の悪性腫瘍を患っている方から人工呼吸器や麻薬の使用などの医療的ケアが必要な特定疾患を抱える方などが入居します。また、高齢者のみではなく、医療依存度が高い方も対象となっています。

1-1.医療特化型有料老人ホームが必要な背景

超高齢化社会を迎えた日本では、医療現場の病床が足りておらず、長期間の入院が難しくなっています。そのため、最期まで医療機関で治療や療養を行うことが難しい現状にあります。

国の施策として、在宅医療が推進されていますが、自宅や一般的な老人ホームでの生活では、医療的なサポートに限界があります。また、自宅での療養や治療を選択した場合、老老介護の状態や近隣に住む家族がいないなど、対応が難しいこともあります。

さらに、在宅医療を進める上で重要な役割を務める訪問看護も需要に対して看護師が不足している状況です。公益財団法人日本訪問看護財団「訪問看護の現状とこれから2024年版」では、2025年に向けた訪問看護師の必要数を12万人としています。

しかし、厚生労働省「令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」によると、2022年に訪問看護ステーションに従事する看護師は、約7万人となっています。訪問看護ステーションだけでは、全てのニーズに対応できない状況になりつつあります。

このように、医療現場の病床不足や家族の介護負担、人手不足である訪問看護ステーションの問題を補うためにも、医療特化型有料老人ホームが必要とされています。

関連する記事はこちら▼
在宅医療とは?仕組み・注目されている背景から今後の予測まで解説

1-2.一般的な有料老人ホームや他施設との違い

介護付き有料老人ホームで働いた経験もある看護師さんへのインタビューをもとに、医療特化型有料老人ホームや他施設との違いについて解説していきます。

有料老人ホームは、介護付き有料老人ホームと住宅型有料老人ホーム、健康型有料老人ホームの3つに分かれます。これらの老人ホームでは主に健康管理が中心に行われていますが、介護や医療ケアがサービス内容に含まれている大きな違いになります。

サービス内容の違いや特徴は下記になります。

種類サービス内容特徴
医療特化型有料老人ホーム・医療ケアを提供する(気管切開や在宅酸素療法など)
・生活のサポート
(食事や洗濯清掃など)
・身体介護
(入浴や排泄など)
・リハビリなど機能訓練
・医療依存度の高い方が対象となる
・看護師が24時間配置されている場合が多い
・緩和ケアや看取りも対応可能
介護付き
有料老人ホーム
・生活のサポート
(食事や洗濯清掃など)
・身体介護
(入浴や排泄など)
・リハビリなど機能訓練
・レクレーションなどイベント
・医療依存度は低く、基本自立した方が多い
・看取りに対応していない場合もある
住宅型有料
老人ホーム
・生活のサポート
(食事や洗濯清掃など)
・介護サービスは提供されない
・要介護となった場合は、訪問介護などの在宅サービス事業者と契約し、介護を受ける必要がある
・看取りに対応していない場合もある
健康型有料
老人ホーム
・生活のサポート
(食事や洗濯清掃など)
・介護サービスは提供されず、認知症や介護が必要となった場合は退去しなければならない。
・看取りは行っていない

   

・指定難病など医療依存度の高い方が対象

医療特化型有料老人ホームは、他の老人ホームと比較して医療ケアのレベルが高く、医療依存度の高い方に対応できる医療体制が整っています。

また、基本的に医療特化型有料老人ホームに入居できる方は、厚生労働省が定めている指定難病を抱える方や重度の障害を持つ方など限定されています。

・緩和ケアやターミナルケアが行える

医療特化型老人ホームでは、看護師が24時間常駐している場合も多く、利用者の緩和ケアやターミナルケアに対応が可能です。緩和ケアやターミナルケアでは、治療に伴う副作用に対してのケアや疼痛のコントロールが必要になります。

そのため、医薬用の麻薬やなどの取り扱いが必要なため、医師の指示のもと看護師が実施しなくてはなりません。

また、病気を受け入れることができなかったり、終末期に対しての不安を抱えていたりと、悩みを抱えている利用者も多くいます。

そのような際に、メンタルケアや意思決定のサポートをするのも看護師の役目であり、医療特化型老人ホームではより専門的な対応が可能です。

・夜勤、オンコールがある

医療依存度の高い利用者が多く、吸引などのケアを実施する必要があるため、夜勤として勤務する施設が多くなっています。そのため、医療特化型有料老人ホームは、基本的には24時間看護師が常駐しています。

それに対し、一般的な老人ホームでは、看護師の夜勤は必須でないため、夜間に看護師がいない場合が多くなっています。

2.医療特化型有料老人ホームでの看護師業務

医療特化型有料老人ホームの分類は、住宅型有料老人ホームにあたります。自宅ではありませんが、利用者はその老人ホームに居宅しているため、訪問看護で医療的ケアを提供する形になります。そのため、利用者との契約は訪問看護師になります。

利用者に対して行う業務内容は施設看護師と変わりはあまりなく、下記のようなものになります。

・健康管理(バイタルチェック、口腔ケア、服薬管理など)
・医療処置(人工呼吸器管理、気管挿管カニューレ、点滴、注射、血糖コントロールなど)
・生活のサポート(入浴介助、食事介助など)

医療依存度の高い利用者が多いため、医療処置に関しては施設ごとに異なる場合もあり、高い経験が必要な医療処置が発生することもあります。

また、医療特化型有料老人ホームでは、ターミナルケアを実施しており、酸素吸入や点滴などの延命処置も行います。

利用者に行う看護業務以外にも記録物や月末書類は訪問看護に準ずるものが必要になりますが、実際にインタビューさせていただいた看護師さんの職場では、管理者以外は訪問看護未経験の看護師とのお話でした。未経験の方でも働きながら学ぶことができる環境のようです。

関連する記事はこちら▼
訪問看護で看護師の果たす役割や仕事内容とは?ニーズが高まる背景なども解説

2-1.気になる1日のスケジュール

インタビューさせていただいた看護師さんが働いている、医療特化型有料老人ホーム看護師の仕事内容は以下の通りです。

9:00
出勤・申し送り
9:30
検温・排便処置・オムツ交換・体位変換・吸引・褥瘡処置・デイサービスの準備、送り出し
11:00
口腔ケア・吸引・注入・食事介助の準備
12:00
昼食の配膳・下膳・食事介助・内服投与・口腔ケア
13:00
休憩~

※ 余裕があれば1時間半ほど

14:30
おやつの準備・時間薬の投与・オムツ交換・体位変換・デイサービスの受け入れ
16:00
夕分の注入・吸引・体位変換・夕食の準備
17:30
夕食の配膳・下膳・内服投与・口腔ケア
17:45
遅番への申し送り
18:00
退社

1日のスケジュールはこのようになっています。

医療特化型有料老ホームでは、日勤のみという働き方をすることもできますが、24時間看護師常駐の場合が多く、月に数回夜勤も発生する場合もあります。

また、訪問看護で医療ケアを提供しますので、1件ごとの訪問時間が決まっています。そのため、スケジュールに合わせて動くことが多く、基本的に残業が少なくなっています。

3.医療特化型有料老人ホームの看護師のリアルな給料

実際の医療特化型有料老人ホームで働く看護師の給料はどの程度なのでしょうか。

大手看護師求人サイトに掲載された内容を確認すると医療特化型老人ホームの平均年収は500万円、月収は35万円でした。管理職になると600万円以上の年収アップも見込めます(※1)。

今回、インタビューさせていただいた看護師さんの医療特化型有料老人ホームのリアルな年収は500万円とのお話でした。

対して、厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、看護師の平均収入は約508万円となっています。(※2)。

医療特化型有料老人ホームでは、病棟のような急患はなく、入居してくる方の日程などがしっかりと決まっています。予定された訪問看護として医療ケアを実施するため残業も少ない環境で、病棟勤務と変わらない収入を得ることができるのは大きな魅力です。

※1調査方法:大手看護師転職サイト3社に掲載されている求人を参考(2024年5月時点)
験年数やスキルなど、求人ごとに条件が異なりますため、あくまで参考値としてご理解ください。
※2企業規模計10人以上のデータの使用
年収算出方法:月額給与(きまって支給する現金給与額)×12+賞与(年間賞与その他特別給与額)

4.実際に働いて感じた病棟看護師との違い・メリット

実際に医療特化型の老人ホームと病棟看護師の両方を経験して感じた、違い・メリットを詳しく解説していきます。

4-1.ルーティンワークが多い

病棟看護師と比較して、ルーティンワークが多いです。急な指示変更などもほとんどなく、基本的に前述した1日のスケジュール通りに業務を行う日が多くなっています。緊急入院もなく予定入居のみなので落ち着いて働くことができます。

また、医療特化型有料老人ホームでは医療依存度が高い方が多いですが、病棟よりは低くなっています。そのため、状態が安定している方が多いので、頻回な吸引や安静度の制限によって介助の回数が増えるといったこともなく、病棟と比較しても忙しさは少ないそうです。

4-2.利用者との関係を築きやすく、時間をかけ向き合う看護ができる

病棟では、急患対応や医療ケアで忙しく、一人ひとりの患者に対して時間をかけられないことも多々あります。医療特化型老人ホームでは、病院と違い入居したら最期まで過ごす利用者が多く、利用者と長く関われるので利用者・家族との関係を築きやすいです。また、医療特化型有料老人ホームでは、利用者の暮らしに寄り添い、日常ケアを通じて長期的に関わることができます。

医療特化型老人ホームの利用者は、指定難病を抱える方などが入居しており、進行性の病気が多いため、利用者とその家族は終末期に関しての不安やストレスを抱える場合が多くあります。そのような時、利用者とその家族の考えや想いを話し合いで、利用者の求める終末期を迎えるための準備が必要になります。

このように、終末期の医療ケアについて利用者や家族などの考えを共有する取り組みを「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」と言います。ACPの話し合いでは、終末期というセンシティブな内容に触れなくてはなりません。

その際に、看護師と利用者、その家族の信頼関係を築いておくことで、サポートできる幅が広がり、重要な役割を担うことにもつながります。看取りやターミナルケアなどに関心のある看護師には、やりがいの多い職場でしょう。

関連する記事はこちら▼
ACP(人生会議)の基本|終末期を迎える患者を尊重する医療の重要性、役割とは?

4-3.ワークライフバランスが取りやすい

一日のスケジュールも一定で予定入居のみなので、残業がほとんど発生しません。また、入居者の健康管理が主な業務なため、病棟で働いていた時より疲れが少なく、帰宅後も子どもたちと全力で遊んだり、家事にも積極的に参加できたりと体力的負担も少ないとのお話でした。

病棟と同じで夜勤はありますが、仮眠が4時間あり業務量も少ないため、夜勤前に備えて休む・夜勤明けは疲れてすぐ寝てしまうことはなく、保育園の送り迎えや趣味に没頭できる時間が圧倒的に増えたそうです。

インタビューを受けてくださった看護師さんの施設だけでなく、他の医療特化型老人ホームで働いている看護師も「仕「仕事で感じる疲れが少なくなった」「夜勤が病棟時代よりも辛くない」と話していました。

体力的な負担も少なく、ワークライフバランスを整えながら、今よりも給料は落とさず、プライベートを充実させることができる点は大きなメリットです。

4-4.病棟のように難しい処置がない

医療特化型の老人ホームは医療依存度が高いと言っても、病棟のような難しい処置はありません。そのため、経験の浅い看護師や、ブランクのある看護師でも働きやすくなっています。

例えば急変対応やCV挿入、複数の点滴ルート管理などの複雑な処置などはありません。人工呼吸器がついている利用者もいますが、在宅用の呼吸器なので家族でも扱えます。

インタビューを受けてくださった看護師さんの医療特化型有料老人ホームでは、病棟時代に全く人工呼吸器を触ったことのない看護師でも、先輩看護師の指導もあり半日程度で対応できるようになりました。また、1か月前に職場に3年のブランクがある看護師が入職しましたが、2か月目には夜勤も始まっており問題なく働けているそうです。

ただ、看護のスキルアップは病棟よりも望めず、オムツ交換や食事介助など介護士の業務もあるため、ストレスに感じる場合もあります。看護師としてのスキルを上げたい場合は、他を検討してみてもよいかもしれません。

5.私でも働ける?求められるスキル

医療特化型の老人ホームでは、病棟のような難しい処置などの看護スキルは必要ないですが、それ以外にどのようなスキルが求められているのでしょうか。

ここでは、医療特化型の老人ホームで看護師に求められるスキルを詳しく紹介していきます。

5-1.臨床経験

病院には医師が常駐しており、常に医師に判断を仰ぐことも可能ですが、医療特化型有料老人ホームでは、自身の経験から判断し対応しなくてはならない時もあり、職場によっては臨床経験3〜5年を求められる場合があります。

しかし、経験が浅い看護師やブランクのある看護師でも業務内容的に働きやすい環境にあります。インタビューを受けてくださった看護師さんの医療特化型老人ホームでは、臨床経験やブランクなどの制限はなかったようです。

ただ、施設によって応募条件が違うので、応募する際は確認してみましょう。

5-2.コミュニケーション能力

医療特化型老人ホームには、指定難病を抱える利用者など、重度の障害を持つ場合も多くあります。例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を抱える利用者の場合、筋肉を動かす神経に障害が発生するため、進行に伴い言葉を発しにくくなります。

その際に、文字盤や目線で文字が打てるパソコンを利用したり、利用者の表情や瞬きでYES/NOを判断したりなど、一歩踏み込んだコミュニケーションを取らなくてはなりません。

意思の疎通を取ることが難しい場合もありますが、どんな症状を持っていたとしても利用者とのコミュニケーションを取ることは必須です。言葉だけのコミュニケーションではなく、様々なものを利用したコミュニケーション能力を養うことが必要です。

6.まとめ

医療特化型老人ホームでは、ルーティンワークが多く、残業が少ないため、ワークライフバランスが取りやすく、体力的な負担が少ないというメリットがあります。また、医療行為も少なく、ブランクをもつ看護師や経験の浅い看護師でも勤めやすい職場です。

終末期まで入居している利用者も多く、深い関係を築きやすいため、ターミナルケアなどに興味のある看護師に魅力的です。さらに、コミュニケーションが難しい疾患を抱える利用者も多いため、コミュニケーション能力を高めたい方にもおすすめです。

今回の記事では、年々需要が高まっている医療特化型有料老人ホームで働く看護師さんにインタビューをさせていただきました。インタビューを受けてくださった看護師さんは、もっと医療特化型有料老人ホームを多くの看護師に知ってもらいたいという想いからこのインタビューを受けてくださいました。

この記事で、多くの看護師が医療特化型有料老人ホームに対する理解を深める一助となれば幸いです。

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