看護師のためのフィジカルアセスメント入門|目的・手順・現場で役立つ観察ポイント

看護師フィジカルアセスメント

「何から見ればいいのか分からない」「正しい判断ができているか不安になる」

フィジカルアセスメントに、そんな苦手意識を持っていませんか?

患者の変化にいち早く気づき、適切なケアにつなげるために欠かせないフィジカルアセスメントですが、考察や判断をするのが難しく感じることも多いはずです。

本記事では、フィジカルアセスメントの基本手順から症状別の見方、現場で役立つ実践のヒントまで詳しく解説します。

※実際の医療行為やアセスメントにおいては各施設のプロトコルや最新のエビデンスに基づいた手技を遵守してください。

1.フィジカルアセスメントとは?

フィジカルアセスメントとは、患者の身体の状態を総合的に観察・評価し、健康上の異常や問題の有無を確かめることです。単に症状を聞くだけではなく、視診・触診・聴診・打診といった身体的な診察を組み合わせ、得られた情報を専門的な知識に基づいて分析します。

看護師にとっては、日々の観察から異変をいち早く察知し、適切な対応につなげるために欠かせない技術といえるでしょう。

1-1.フィジカルアセスメントの目的

看護師が行うフィジカルアセスメントの目的は、患者の健康状態を的確に把握し、それに応じた看護ケアを根拠を持って提供することです。

医師が診断確定を目的として身体診察を行うのに対し、看護師は“看護の視点”からアセスメントを行い、必要なケアの選定とその効果の評価を重視します。

フィジカルアセスメントを日常的に実施することで、異常を早期発見できることで重症化の予防や迅速な処置につながります。

1-2.フィジカルアセスメントは大きく2種類の情報に分けられる

フィジカルアセスメントは、「主観的情報」と「客観的情報」に分けられます。

・主観的情報

患者自身が感じている症状や不調、違和感について、問診などで直接言葉として語られる情報が主観的情報になります。
得られる情報は、「痛みがある」「だるさが続く」「食欲がない」など、本人にしかわからない感覚や状態です。
患者の発言は曖昧だったり感情を伴うこともあるため、単に質問するだけではなく、共感を示す対応も必要です。

・客観的情報

バイタルサインや検査によって得られる数値化・視覚化できる情報が客観的情報になります。視診・触診・打診・聴診で得られる情報も含まれます。
客観的情報は看護師個々の知識や技術の習熟度によって、得られる情報が大きく変わります。しっかりと経験値を積むことが大切です。
これらの情報を集め分析・評価し、症状の進行を防ぎます。

2.フィジカルアセスメントが普及した背景・歴史

看護の現場でフィジカルアセスメントが系統的に取り入れられるようになった背景には、高度な医学知識と診療スキルを持つ看護師「ナース・プラクティショナー(NP)」の存在がありました。

フィジカルアセスメントが最初に導入されたのはアメリカで、1970年代以降にナース・プラクティショナー(NP)が出現したことで、看護師がより主体的に患者の状態を把握し、ケアに活かす役割を担うようになったことが大きな転機となりました。

それまで医師のみが行っていた身体診察の一部を看護師が実践することが求められるようになり、フィジカルアセスメントの体系的な指導が始まりました。

一方、日本においては、2000年代初頭から一部の看護系大学で先進的にフィジカルアセスメント教育が導入され始めました。

その後、2009年に看護基礎教育のカリキュラムが改定され、フィジカルアセスメントが重要な看護技術として正式に位置づけられたことで、全国の看護教育機関で本格的に教えられるようになりました。

現在では、看護師が専門職として的確な観察・判断を行うための必須技術として、フィジカルアセスメントは欠かせない技術とされています。

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3.フィジカルアセスメントの基本手順

フィジカルアセスメントは、問診、視診、触診、打診、聴診という5つの基本手順から構成されています。

これらは互いに補完し合う関係にあり、単独では得られない情報を組み合わせることで、より精度の高い判断が可能になります。

ここでは、それぞれの手技の目的と方法、観察のポイントについて解説します。

3-1. 問診

問診は、現在の症状、既往歴、生活習慣、家族の病歴などについて質問し、患者から得られる情報を基に症状の原因や緊急性など身体状態を推測します。

質問の形式は、自由に話してもらう開かれた質問と、「はい/いいえ」で答える閉じた質問を使い分けます。

問診のポイント

・患者の自覚症状や主訴を丁寧に聞き取る
・既往歴や家族歴など、健康背景も把握する
・開かれた質問と閉じた質問を状況に応じて活用する

3-2. 視診

視診とは、目で見て患者の身体的な異常や症状の特徴を観察する方法です。皮膚の色、形、大きさ、対称性、動きなどを確認し、身体機能や疾患のサインを捉えます。

視診は、患者が部屋に入った瞬間の表情や姿勢から始めます。

視診のポイント

・観察する部位だけを露出させ、他の部位は覆う
・室温を快適に保ち、皮膚の色に影響を与えないようにする
・自然光など十分な明るさの下で実施する
・左右対称性や色、位置、性状の違いを意識して観察する

3-3. 触診

触診は、手を使って皮膚や筋肉、内臓の状態を感じ取り、異常の有無や性質を確認する方法です。

皮膚の温度、硬さ、腫瘤の有無、圧痛などをチェックし、浅い触診から深い触診へと進めます。

触診のポイント

・爪は短く切り、手は温めておく
・必ず浅い触診から始め、深い触診へと段階的に進める
・圧痛のある部位は最後に触れる

3-4. 打診  

打診とは、身体の表面を軽く叩くことで生じる音から、内部の状態を判断する方法です。

主に腹水や胸水の貯留がないか、空洞の有無、臓器の大きさや位置、密度などを確認するのに役立ちます。

打診のポイント

・利き手の中指で叩き、打たれる側の手の中指は皮膚に密着させる
・手首のスナップを利かせて、垂直に2回ずつ軽く叩く
・打診音の違い(共鳴音・濁音・鼓音)に注意して診断する

3-5. 聴診

聴診は、聴診器を用いて体内の音(心音・呼吸音・腸音など)を聞き取り、身体状態を評価する方法です。

聴診器を使って音を聴く「間接聴診法」が主流で、患部に直接耳を当てて音を聴く「直接聴診法」もあります。

高音は膜式、低音はベル式で聴き分けるなどの使い分けが重要です。

また、胸痛や呼吸困難を訴える場合は聴診を先に行うなど、患者の症状に応じて順番の変更も考慮する必要があります。

聴診のポイント

・イヤーピースは自分の耳に正しくフィットさせる(自分から見たときにハの字になるように)
・膜式とベル式を聴く音の種類によって使い分ける
・チェストピースは事前に温め、冷たさで不快にさせない
・静かな環境で行い、患者の症状に応じて順番を柔軟に調整する

参考:メヂカルフレンド社「はじめよう!フィジカルアセスメント」

4.フィジカルアセスメントの実践例【症状別観察ポイント】

急変の兆候を見逃さず、適切な初期対応につなげるためには、症状に応じた“観察の視点”を持つことが重要です。

ここでは、臨床でよく遭遇する「チアノーゼ」「腹痛」「悪心・嘔吐」「浮腫」の4つの症状を取り上げ、観察ポイントを解説します。

4-1.チアノーゼ

チアノーゼは、皮膚や粘膜が青紫色を呈する状態で、血液中の酸素飽和度が低下した際に見られる重要な身体所見の1つです。

【観察のポイント】

チアノーゼのアセスメントとしては、発症箇所、発症するまでの時間、チアノーゼ以外の症状がないかなどを確認します。チアノーゼが急激に出現したのか、それとも時間をかけて徐々に進行してきたのかという経過もアセスメントの重要なポイントになるので見逃さないようにしましょう。

■発症箇所

まずは、発症箇所を確認することで、チアノーゼが末梢性か中枢性かを見極めます。

・末梢性のチアノーゼ
末梢への血流不足により、四肢の末端に現れる特徴があります。

・中枢性のチアノーゼ
原因は心臓や呼吸器、血液などにあり、動脈血中の酸素量が減少するため、末端のみではなく全身にチアノーゼが現れます。

■発症するまでの時間

チアノーゼは、急性の呼吸不全や心機能の悪化によって突然生じるケースもあれば、慢性的な低酸素状態が背景にある場合もあるため、出現のタイミングは診断の手がかりとなります。

急激にチアノーゼは発症した場合は、緊急性が高いため、意識レベルや自発呼吸があるかなどを確認し、急いで医師に連絡しましょう。

■その他の症状

さらに、チアノーゼが全身に及んでいるのか、口唇や指先といった特定の部位に限局しているのかといった分布の確認も重要です。

加えて、呼吸困難や胸痛、動悸などの随伴症状があるかどうかも見逃してはなりません。症状が複数組み合わさっている場合、重篤な心肺系疾患が背景にある可能性が高くなります。

また、最近の生活状況にも目を向け、高地への旅行歴や化学物質への曝露など、酸素供給に影響を与える外的要因がなかったかを確認します。

必要に応じて、家族の既往歴や類似症状の有無を尋ね、遺伝性の疾患の可能性も視野に入れましょう。

参考:日本心臓財団「チアノーゼ」

4-2.腹痛

腹痛のフィジカルアセスメントは、下記のように行いましょう。

【観察のポイント】

腹痛の患者は、問診→視診→聴診→打診→触診の手順でおこないます。打診、触診で痛みが強くなる可能性もあるため注意します。

■問診

・痛みの発生時刻、部位、性質、強さ、持続性の有無、放散痛の有無・痛みの誘因(食事、運動、ストレスなど)
・随伴症状(嘔吐、下痢、排便状況、月経など)
・既往歴(消化器・循環器・婦人科系)、薬の服用状況

視診

・腹部の膨隆や皮膚の異常(発赤、着色、瘢痕など)
・表情や姿勢の異常(苦悶様表情、身体の緊張など)

聴診

・呼吸状態の異常(速呼吸、抑制呼吸など)
・4区分または9区分に分けて聴診し、腸蠕動音の有無や性状を確認
・血管雑音や異常音の聴取・静かな環境で行い、チェストピースを温めて使用

触診

・表在性触診→深達性触診の順に行う
・腹壁の緊張、反跳痛(ブルンベルグ徴候)の有無
・腹水や腫瘤の有無、腹部の柔らかさや圧痛部位の確認
・冷たい手や急な圧迫を避け、患者の不快感に配慮する

打診

・共鳴音、濁音、鼓音の違いに着目
・肝臓・脾臓の大きさや、痛みの有無(叩打痛)を確認・利き手の中指を使い、手首のスナップで軽く叩く

腹痛は、発生する部位によってある程度その原因疾患を推測することが可能です。

心窩部に痛みがある場合には消化器疾患だけでなく、心疾患や膵炎といった重篤な疾患も含まれます。

また、下腹部の痛みであれば、消化器系疾患に加えて婦人科系疾患の可能性も視野に入れる必要があります。

参考:金沢医科大学「腹痛」

4-3.悪心・嘔吐

悪心とは「吐き気」のことで、患者自身が「ムカムカする」「気持ちが悪い」といった言葉で訴える症状です。

これに対し、実際に口から内容物を吐き出すことを嘔吐といいます。いずれも消化器系の異常だけでなく、中枢神経系や薬剤の影響、代謝異常など、さまざまな要因によって引き起こされます。

【観察のポイント】

悪心や嘔吐のアセスメントでは、悪心に続いての嘔吐か、それとも突然の嘔吐かを把握することが重要です。

■悪心に続いての嘔吐の場合

嘔吐の頻度や持続時間にも注目し、消化管の狭窄や薬剤性の嘔吐、腹膜炎、肝胆膵疾患などとの関連性の疑いがないかをチェックします。

さらに、吐物の色やにおい、量も評価の手がかりになります。消化の程度や胆汁・血液などの混入の有無、便臭などを確認するとともに、嘔吐の回数や経過が悪化していないかなども確認します。

■突然の嘔吐の場合

突然の嘔吐に加えて、激しい頭痛や血圧上昇、麻痺などがみられる場合は、くも膜下出血や、脳腫瘍による頭蓋内圧亢進状態の危険性も視野に入れる必要があります。緊急で医師に伝えましょう。

参考:健康長寿ネット「悪心・嘔吐」

4-4.浮腫

浮腫とは、皮下組織に余分な水分が溜まり、皮膚やその下が腫れたような状態を指します。

【観察のポイント】

顔や手足、背中、仙骨部などの浮腫の部位や程度、発生時期、痛みの有無・膨張具合などは患者によって異なります。

浮腫のアセスメントでは、視診と触診を組み合わせることで状態をより正確に把握できます。

■視診

視診では、皮膚の光沢やしわの消失、腫れの左右差などを確認したり、靴がきつく感じる、顔が腫れて目が開けにくいなど、患者自身の訴えからも浮腫の存在を疑うことができます。

触診

触診では、浮腫を圧迫し解除したときに、跳ね返る(顕性浮腫)か、陥没したまま(潜在性浮腫)戻らないかどうかを確認します。

■その他

浮腫の背景には腎不全、肝硬変、うっ血性心不全、リンパの流れの障害など、さまざまな原因が潜んでいます。

病歴を把握し、薬物治療における副作用として浮腫が出現していないかということや、食事の摂取量なども確認しましょう。

参考:益田市医師会「むくみ(浮腫)とは何?」

5.フィジカルアセスメントのQ&A 

ここでは、現場でよくある疑問に答える形で、フィジカルアセスメントに関するよくある質問や実践的なヒントを紹介します。

5-1.フィジカルアセスメントで看護師に求められるスキルは?

フィジカルアセスメントを適切に行ううえで、「患者の異変に気づく観察力」「症状に対する専門的知識」「コミュニケーション力を生かした説明力」の3つのスキルが求められます。

また、正しいアセスメントを行うためには、ただ観察するだけでなく、「この症状が現れる背景にはどのような生理的異常があるか」を論理的に考えることが必要です。

看護師は医師ではないため診断を下すわけではありませんが、看護の視点から状況を見立て、適切な対応につなげることが求められます。

さらに、患者やご家族にフィジカルアセスメントの結果や観察された内容をわかりやすく伝える力も不可欠です。不安を抱える人に対して、難解な医療用語を並べるのではなく、かみ砕いた表現で丁寧に説明する力は、信頼関係の構築にもつながります。

5-2.看護師がフィジカルアセスメントに関するさらなる知識・技術を習得するには?

すでに看護師として働いている方が、フィジカルアセスメントのスキルをさらに深めたいと考える場合には、体系的に学べる研修やセミナーに参加することが最も有効な手段といえるでしょう。

中でも、実践的な内容に定評のあるのが「日本救急看護学会」が主催する『救急初療看護コース_フィジカルアセスメントセミナー』です。

救急初療における看護過程に基づいた看護実践を行うための力を身につけることを目的とし、フィジカルアセスメントの基礎から応用までを段階的に学ぶことができます。

学習は3つのフェーズに分かれており、初期対応から臨床推論、最終的な看護診断とケアの実践までを体系的にトレーニングできる設計となっています。

フィジカルアセスメントセミナーについての詳細はこちらからご確認ください▼
日本救急看護学会救急初療看護コース_フィジカルアセスメントセミナー

5-3.フィジカルアセスメントを行う際のポイント

フィジカルアセスメントに対して苦手意識を持つ看護師は少なくありません。その背景には、「どんな質問をすればよいか分からない」「情報をうまく引き出せない」といった悩みが潜んでいます。

こうした課題を克服するためには、観察の手順や技術と同様に、患者への問いかけ方にも工夫が必要です。

例えば、ある部位の痛みを訴えている患者に対しては、痛みの発生時刻や誘因、性質、持続時間、範囲、関連症状の有無など、さまざまな視点から段階的に質問していくことで、より多角的で正確な情報を得ることが可能になります。

また、アセスメント結果をわかりやすく整理し、チーム内で共有するために、「SOAP」の形式を活用するのが効果的です。

SOAPとは

Subjective(主観的情報)、Objective(客観的情報)、Assessment(評価)、Plan(計画)の頭文字をとった記録方式です。

患者の訴えをS、視診・触診・打診・聴診から得られたデータをOにまとめ、これらの情報をもとにした看護師の判断をAに記し、最後にどのようなケアを行うかの方針をPに記載します。

このように得た情報や看護方針を見やすくまとめると課題点が分かりやすく、治療を考える上で大変役立ちます。

6.まとめ

フィジカルアセスメントは、患者の小さな変化を見逃さず、適切な看護ケアへとつなげるための基礎であり、看護師にとって不可欠なスキルです。

一見すると難しそうに感じるかもしれませんが、「問診・視診・聴診・打診・触診」という基本手順に沿って、少しずつ経験を重ねていくことで、着実に身につけることができます。

また、日々の実践に加えて研修やセミナーを活用すれば、知識と技術の理解もさらに深まります。

ひとつひとつの観察と問いかけを丁寧に積み重ね、患者に寄り添う看護を実践していきましょう。

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